抗菌薬(抗生物質、抗生剤)が効かない「薬剤耐性菌」による感染症にかかると、治療法が限られ、治りにくい。耐性菌は身近な感染症でも問題になっていて、今や誰もが見過ごせない。ゆめゆめ油断なきよう。

 ◇増える強毒型、症状厄介に

抗菌薬に抵抗力を持った細菌(イメージ画像)を薬剤耐性菌と言う
抗菌薬に抵抗力を持った細菌(イメージ画像)を薬剤耐性菌と言う

 いつの間にかできた「できもの」が消えず、腫れて痛みも伴うようなら、薬が効かない「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」に感染した可能性も考えられる。最近、MRSAによる皮膚感染症が目立つと指摘されている。皮膚に異変が見られたら、ひどくなる前に受診したい。

 皮膚感染症を起こすMRSAについて、東京薬科大学の中南秀将教授(臨床微生物学)は「問題なのは、原因菌の流行が変わって強毒株が増えていることだ」と話す。2010年以降、白血球を破壊する特定の毒素を産生するMRSAの感染が増加しているという。

 虫刺され痕やすり傷などの傷口から黄色ブドウ球菌が侵入して増殖すると、できものができたり、化膿したりするが、そうしたよくある症状も含む皮膚感染症全体の2〜3割がMRSAで、しかも、そのうちの半数以上が特定の毒素を産生する株だと中南教授は説明する。

中南秀将教授
中南秀将教授

 その特定の毒素を出すMRSAに感染すると症状は重くなりやすい。できものの赤みや痛みが激しくなったり、皮膚の深いところに炎症を起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)になったりする。非常に重篤な壊死性筋膜炎に至ったケースも報告されている。

 このようなMRSAは市中で広がっているため、年齢問わず、誰でも感染する恐れがある。皮膚感染症の治療で使用する一般的な抗菌薬は効かないが、たまった膿を出す切開排膿や他の抗菌薬で治していく。

 「処置が早ければ治りも早くなるので、早期に皮膚科を受診してください」と中南教授。ただ、特定の毒素を産生するMRSAの認知度は低く、耐性菌と気付かずに治療し、悪化したり、治りづらくなったりすることも。そのため、処方された薬を2〜3日使っても良くならない場合は再診を促す。

 ◇従来の薬で治療受け、手遅れに

 昨年、しつこいせきなどが長引く百日ぜきが流行した。患者数は8万9000人を超え、感染症法で全ての患者を把握するようになった2018年以降最多。受診しない人も多いため、実際の感染者は100万人以上ではないかと、東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩部長は推測する。

堀越裕歩氏
堀越裕歩氏


 国立感染症研究所の調査では、患者から採取した百日ぜき菌の約8割がマクロライドという抗菌薬に耐性だった。

 なぜ耐性菌による感染が急増したのか。新型コロナへの徹底した感染対策に伴い、さまざまな感染症の免疫が低くなっている中、中国で大流行していたマクロライド耐性の百日ぜき菌が国内に持ち込まれて拡大したとされる。「たまたまの要因が重なったことが大きい」と堀越氏。感染症はいつ、どこで広がってもおかしくない。

 そもそも百日ぜきはくしゃみやせきなどでうつり、感染力がとても強い。大人は知らぬ間に治ることも多いが、気付かぬうちに学校や家庭、職場などで感染が広がりやすい。特に生後6カ月未満の乳児への感染は気を付けなければならない。重症になりやすく、肺炎や脳症などを引き起こすと命に関わるからだ。

 そうした中、昨年、耐性菌の百日ぜきにかかった赤ちゃんが重症化し、亡くなる事態が起きた。赤ちゃんはマクロライドで治療を受けていた。「従来の百日ぜき菌にはマクロライドは効くが、耐性菌には全く効かないので、完全な空振り。どんどん悪化してしまう。早めに適切な処置ができれば重症化を防げるが、百日ぜきは進行してしまうと救命が難しい。それが怖いところ」と堀越氏は話す。

 ◇ワクチン、手洗いなどで対策を

 簡単に言うと、薬剤耐性菌は抗菌薬の安易な使用によって増える。そうして生まれた耐性菌は体内に残るだけでなく、ヒトにうつって広がる。まずは、抗菌薬は細菌をやっつける薬でウイルスには効かないということをしっかり理解してほしいと医師や専門家は繰り返し呼び掛けている。風邪やインフルエンザには必要ないのだ。

 もう一つ、肝心なのが予防だ。感染を防げれば、抗菌薬を使う場面も減る。

 ワクチンは耐性菌であっても有効。「百日ぜきはワクチンさえ打っていれば重症化は防げる」と堀越氏。生後2カ月になったら、早めに定期接種を受けるのが大事だ。

耐性菌の感染症予防にはワクチンも有効(イメージ画像)
耐性菌の感染症予防にはワクチンも有効(イメージ画像)


 ただ、ワクチンの免疫効果は弱まっていく。そのため、日本小児科学会は、就学前の小児や小学校高学年での任意接種を推奨している。そうすれば「就学前から10代前半で感染が多いが、その山を抑えることにつながる」と堀越氏は説明する。

 ワクチン接種前の赤ちゃんを守るには「母子免疫」が勧められる。妊婦にワクチンを接種し、抗体を母体から胎児に受け渡すことで、生まれたあとの赤ちゃんの重症化を防ぐ手法だ。

 今回流行した耐性菌の百日ぜきはひとまず終息したようにも見えるが、油断できない。百日ぜきは免疫の減衰で数年ごとに流行の波を繰り返す。

 皮膚炎を起こすMRSAは、接触感染でうつるため、こまめな手洗いが大事。洗面所がなければ手指消毒剤でも構わないそう。トイレの後は石けんでしっかり洗い、便座も拭いてから座るよう心掛けを。耐性菌のできものがお尻にできることは珍しくないという。

 「それだけ耐性菌が身近にいるということを認識してほしい。自分だけでなく、周りにうつしてしまうかもしれないという意識を持ってもらえれば、手洗いなど感染対策の仕方も変わるのではないか」。中南教授はそう呼び掛ける。

 耐性菌による感染は、気付かぬ間に拡大する「サイレントパンデミック」と呼ばれ、公衆衛生の脅威となる。自分事として考えていきたい。(及川彩)

引用元:
身近で広がる薬効かぬ耐性菌 〜皮膚炎で増加、百日ぜきでも〜(時事メディカル)