出産時に麻酔で痛みを和らげる「無痛分娩[ぶんべん]」を選択する人が熊本県内で増えている。「陣痛に耐えてこそ一人前の母親」といった旧来の価値観の変化や口コミでの広がりに加え、安全性を高めようと、病院側が産科の麻酔科医の養成を進めてきたことが背景にある。

 「痛みは自然分娩の3割くらい。陣痛に耐えてこそ愛情が育まれるとよく言われるが、むしろ穏やかな気持ちでわが子と向き合えた」。2022年に第3子を初めて無痛分娩で出産した熊本市西区の女性(43)は、コロナ禍で出産時の家族の立ち会いができず、心に余裕を持つため無痛分娩を選択した。

 麻酔が効いていると痛みはほぼ感じなかったが、麻酔が切れてくると陣痛が苦しかったという。それでも出産時に体力の消耗を抑えられたおかげか、産後の回復は早かった。「痛みはゼロではない。どのお産も命懸けであることに変わりはない」と振り返った。

 無痛分娩は、脊髄と背骨の間に挿入したカテーテルから麻酔薬を投入する「硬膜外麻酔」が主流。極度の肥満や心臓病などの持病がある人はできない場合がある。保険適用外のため、一般的に10万〜20万円の追加費用がかかる。


(写真:熊本日日新聞)

 日本産婦人科医会(東京)の会員調査によると、24年の全国の全分娩数に対する無痛分娩の割合は16・2%。6年連続で増加し、17年の5・2%から3倍になった。熊本県は28・1%で、東京都の35・8%に次ぎ全国で2番目に高い。

 25年の分娩数が全国一だった福田病院(熊本市中央区)では、25年の分娩数4063件のうち、40・9%の1665件が無痛分娩。本格導入した20年の137件から約12倍に増えた。麻酔による妊婦の呼吸不全や陣痛促進剤による子宮破裂のリスクをできるだけ下げようと、15年から院内での勉強会や外部研修を開始。20年に熊本大病院に産科麻酔学の寄付講座を開設し、無痛分娩の研究や産科麻酔の教育を重ねてきた。

 15年に2人だった常勤の麻酔科医を6人に増やし、24時間、無痛分娩に対応できる体制を整備。自然分娩希望でも直前で無痛に切り替える人もいるという。

 出産一時金に収まるように追加費用は3万〜5万円に設定しているが、安全性を担保するための設備投資など、病院側の負担は重い。福田曜子副院長は「お産を前向きに納得できる形で迎えられるよう、選択肢の一つとして無痛分娩を用意している。安全性を高めるためには、人材育成と公的な助成が鍵になる」と指摘する。

引用元:
「無痛分娩」熊本県内で増加 全国2位の割合 「耐えてこそ母」価値観変化 進む病院の麻酔科医養成(熊本日日新聞)