長年、妊婦は安静にするよう言われてきた。激しい運動は胎児によくないとされ、「心拍数を1分間に140以上にしない」「20ポンド(約9キログラム)以上の物を持ち上げない」「1時間以上運動しない」など、専門家はさまざまな制限を設けてきた。

 しかし、こうした制限の多くは、科学的根拠ではなく専門家の意見に基づいていた。「あくまで起こりうる理論上のリスクに基づくもので、経験的な証拠に裏づけられたものではありません」と、カナダ、アルバータ大学産前・産後健康プログラムのディレクター、マーギー・ダベンポート氏は話す。

 例えば「心拍数は140以下に」というアドバイスは、米国産科婦人科学会(ACOG)の1985年のガイドラインで示された。当時は低強度の運動が有益なのは知られていたが、より高強度の(激しい)運動に関するデータがなかった。


 上限を140としたのは、それが運動の強さで中強度と高強度の境目にあたるおおよその値だからだとダベンポート氏は指摘する。研究が乏しい状況では、慎重な基準になるのも無理はない。(参考記事:「運動の強さは「会話ができる程度」でいい、脂肪が燃えやすく」)

 今、その状況が変わりつつある。ここ数年、トップアスリートから一般の運動愛好家までを対象にした多くの研究が行われ、健康な妊娠中に体をしっかり動かすことは安全であるだけでなく、母子双方によい影響をもたらす可能性があることが示されている。

「妊娠中に運動したい人にとっては大きな転換です」と話すのは、オーストラリア、セントラルクイーンズランド大学の健康科学准教授メラニー・ヘイマン氏だ。氏はオーストラリアスポーツ研究所が策定した、妊娠中のアスリート向け推奨事項(2025年版)の共著者でもある。

「妊娠中の女性は何をしたらいけないかではなく、何ができるかを示す内容になっています」とヘイマン氏は説明する。(参考記事:「女性の方が大きい運動の恩恵、同じ運動量で死亡リスクがより低下」)

引用元:
妊娠中の運動は合併症のリスク低下と関連、適切な量と強度とは(ナショナルジオグラフィック日本版)