国立がん研究センターによると、2023年の新たな女性の乳がん患者は約10万2600人。日本人女性の9人に1人がこのがんになると言われ、女性のがんのトップだ。治療法は進み、予後は改善されている。ただ、課題は残る。乳房を傷つけず、日常生活を維持したいという女性の願いは切実だ。その実現を目指す国内初の「BNCT」療法が、江戸川病院(東京都江戸川区)で始まっている。
BNCT装置による治療のイメージ=江戸川病院提供
BNCT装置による治療のイメージ=江戸川病院提供
BNCTは「ホウ素中性子補足療法」と言われる新しい放射線治療法だ。乳がん組織は正常な組織に比べ、がんに栄養を供給するLAT1という物質が出現する率が高い。ホウ素製薬剤はLAT1を介してがん細胞に取り込まれ、同製剤が集積しやすい。これを調べることで、がん細胞の位置を特定する。
その上で、加速器型装置で中性子をつくり出し、がん細胞を狙い撃つ。がん細胞以外への悪影響を避けるために高速中性子を減らすとともに、照射口をできるだけ乳房に近づけるように工夫されている。
◇患者の負担を少なく
標準治療では、外科的手術から放射線治療、ホルモン療法やHER2療法、抗がん剤などの全身療法といった流れをたどる。さらに、乳房再建手術を加えれば通院期間は長く、患者の負担は大きい。
これに対しBNCTの場合は、1回約40分間照射するので傷痕は残らない。全身療法を併用するが、標準治療より短期間で済む。患者の負担は少なく、QOL(生活の質)の維持でもメリットが大きいと期待されている。実際にこの治療を受けた患者に聞いた。
江戸川病院の「BNCT棟」
江戸川病院の「BNCT棟」
◇「夢の治療になる」
静岡県在住のあけみさん(仮称)は2025年7月、入浴中に乳房にしこりがあることに気付いた。クリニックの紹介で総合病院を受診したところ、乳がんと診断された。毎年の健康診断では異常がなかったため、「まさか自分が乳がんなんて。頭の中が真っ白になった」と振り返る。ショックだったが、何とかしなければならない。九州にいる親友はステージ4の乳がんを患った経験がある。彼女から話を聞くとともに、江戸川病院のYou Tubeを見てBNCTという新しい治療を受けてみたいと思ったという。
「人体実験≠してみたい」。そんな気持ちから同病院に連絡し、BNCTによる治療を受けた。
入院は2泊3日。1日目はリハーサル、2日目にBNCT治療、3日目に退院した。吐き気はあったが、10日後に仕事に復帰した。頭髪が抜けたが、4カ月たって生えはじめた。がん細胞は2カ月後には変化が見られなかったが、4カ月後には減少していた。
あけみさんは「特に若い患者の方にとっては、『夢の治療』になると思います」と期待しつつ、「私の地元の医師もBNCTを知らなかった。BNCTは乳房を切ることなく、治療できる。周知度が高まってほしい」と言う。
◇国立がん研究センターも臨床試験
乳がん全てに適用できるわけではない。▽放射線が届く範囲(深さ約6センチ以内)にある▽標準治療が有効でないか希望しない▽肺や腎臓の機能が保たれている▽原則として遠隔転移がないーなどが条件となっている。
保険が適用されないため、費用は自由診療で440万円かかる。理由の一つは、ホウ素製薬剤は供給元が限られており、高額になりやすいからだという。
国立がん研究センター中央病院でも、胸部固形がん(食道がん、非小細胞肺がん、乳がんなど)についてBNCTの臨床試験が行われている。江戸川病院関係者は「将来、さまざまながんで手術、放射線治療、化学療法に続く『第4の治療』になることを期待している」と話す。(鈴木豊)
引用元:
乳房傷つけず、QOL維持期待 〜乳がん最新治療「BNCT」〜(時事メディカル)