少子化や後継者不足、経営難で分娩[ぶんべん]の取り扱いをやめる医療機関が出ている。熊本県内では分娩取り扱い施設がない地域もあり、出産時に長距離の移動が必要になるなど、妊婦への負担が懸念されている。医師不足、物価高、働き方改革との両立など、産婦人科を巡る状況は厳しさを増している。
熊本市中央区の「ゆのはら産婦人科医院」は、昨年3月で分娩の取り扱いを中止した。入院設備を備えた5階建ての病院を取り壊し、隣接する土地に新たに小規模な建物を設けて、今年3月下旬、再出発した。柚原健男院長(68)は「365日24時間、1人でお産を担当していたが、体力面でも経営面でも限界があった」と決断の理由を明かす。
出産にかかる所要時間は初産婦で11〜15時間、経産婦で6〜8時間とされ、20時間以上かかる人もいる。その間医師や助産師がつきっきりで対応する。柚原院長も、夜間の分娩に加え日中は診察や手術などにも対応。急な呼び出しも多く、休みがなかったという。
働き方改革で、出産時間の間に助産師が交代する必要がある。「1人の分娩にスタッフが何人もいる。出産には人件費がかなりかかる」。光熱費や設備、消耗品の医療器具にかかる費用も高騰し、経営を圧迫。2024年2月に柚原院長が過労で倒れ、救急搬送されたことをきっかけに、分娩取り扱いの中止に踏み切った。
ゆのはら産婦人科医院は01年、国連児童基金(ユニセフ)が認定する「赤ちゃんに優しい病院」に県内で初めて認定され、母乳育児支援施設として母子のサポートを続けてきた。産後ケアで訪れる女性の中には、子どもの抱き方が分からなかったり、うつ状態だったりする人もいる。「産前から育児や子どものことを知ってもらう必要がある」と柚原院長。今後は、妊娠前からの健康管理「プレコンセプションケア」や、産前産後のケアに力を入れるという。
熊本県医療政策課によると、県内の分娩取り扱い施設は、10年前の16年には47カ所あったが、今年1月時点では28カ所と4割減った。このうち57%が熊本都市圏に集中し、阿蘇や鹿本地域には、出産できる医療機関がない。
22年の統計によると、県内の産婦人科医数は145人で、人口10万人あたり8・4人。全国平均の9・5人を下回っている。特に産科は長時間労働や深夜の緊急呼び出しも多く、後継者不足が深刻という。
少子化も影響している。県内の出生数は年々減少し、25年は1万953人。10年前の15年(1万5577人)から3割減少した。
全国的な分娩中止の動きや産婦人科医不足に対応するため、国は出産を取り扱う医療機関の集約化や連携を進めている。
分娩できる医療機関と地域の診療所が連携して妊婦に対応する「オープンシステム」の導入もその一つ。妊娠35週まで地域で妊婦健診を受け、設備が整った分娩取り扱い施設で出産する。県によると、荒尾市で市立有明医療センターと二つの産科診療所が23年10月に導入。24年の取り扱い件数は198件と、順調なスタートという。
県は、最寄りの分娩取り扱い施設まで1時間以上かかる妊婦に対して、交通費などを助成。分娩数が減少した医療機関や取り扱わない医療機関にも、近隣の分娩取り扱い施設との連携などを条件に、補助金を出して経営を支援している。県医療政策課の担当者は「地域の医療機関に通いながら分娩だけ病院を変えても、安心して出産できるよう支援を継続する」としている。(関本百合恵)
引用元:
熊本県内「分娩」施設、10年で4割減 産婦人科 厳しさ増す経営 地域連携、補助金で支援も(熊本日日新聞)