「仕事が忙しくて、まだ結婚の予定もありません。でも、将来のことを考えて今のうちに卵子凍結をしてもらおうとすると、どんな流れになるのでしょうか」

 東京都在住の女性会社員(37)が担当医に尋ねました。女性は都による卵子凍結費用の助成制度の手続きに従って、来院したのでした。

 ◇「社会的」と「医学的」…二つの考え方がある卵子凍結

 日本の平均初婚年齢や第1子出産年齢は年々上昇傾向にあります。これは、昔に比べて、女性が社会で活躍する期間が長くなる一方で、結婚や出産といったイベントが先送りされる傾向を意味します。

 しかし、年齢の上昇とともに卵子の質が低下し、妊孕(にんよう)性(妊娠するための力)が低下するという生物学的な事実は、女性にとって避けることができません。

 私たちは「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR 性と生殖に関する健康と権利)」を大切に考えています。これは、自分のセクシュアリティーや、いつ、何人の子どもを持つかを、すべての人が自分自身で決められる権利のことです。

 「今すぐ妊娠を望んでいるわけではないけれど、将来子どもを持ちたいと考えている」――そんな願いに応える医療が、「卵子凍結」です。

 卵子凍結には、大きく分けて「社会的」卵子凍結と「医学的」卵子凍結という二つの形があります。

 社会的卵子凍結とは、加齢による卵巣機能の低下を見越して、将来の妊娠に備えるために卵子を保存しておく方法です。

 女性の卵子の質や数は、年齢とともに徐々に低下します。特に35歳を過ぎるとその変化は加速するため、自然妊娠の確率も低くなっていきます。

 社会的卵子凍結は「将来の可能性を残す」ための手段として注目されており、東京都の助成制度の対象になっています。

 これにより、費用面でのサポートを受けながら凍結をする方が増えています。仕事やパートナーとのタイミングなど、ライフプランは人それぞれです。妊娠・出産の選択肢を少しでも広げておきたいとお考えの方は、考慮されうる医療です。

 米国の巨大企業で社会的卵子凍結を出産・養育に関する福利厚生の一つとして初めて導入したのがフェイスブック(現メタ)です。2014年のことでした。そして、アップルやグーグルといった多くの企業がそれに続きました。

 米国ではフェイスブックの導入からわずか2年で、社員500人以上の企業のうちこの制度を導入したのは全体の5%に達しました。

 ◇広がる助成制度…必要な対象要件の確認

 日本でも15年に自治体として初めて千葉県浦安市が公費を助成する事業を実施。それ以降、全国各地へ広がりを見せています。

 参考までに、23年9月に開始した東京都の助成制度をご紹介しましょう。

 対象者は都内在住の18歳から39歳までの女性 (採卵を実施した日における年齢)ですが、既に不妊症の診断を受けて不妊治療を目的に採卵・卵子凍結をする方は対象外です。

 都が開催する説明会に参加する必要があり、助成対象となるのは1人につき1回のみです。額は卵子凍結を実施した年度は上限20万円、さらに次年度以降は、保管に関する調査に回答した際に凍結の更新費用の助成として1年ごと一律2万円(28年度まで実施)となっています。

 一方、医学的卵子凍結は、がんなどの病気の治療によって将来の妊娠が難しくなる可能性がある方が対象となる卵子保存方法です。

 例えば、白血病や乳がんなどで抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療を受ける場合、卵巣機能が低下し、将来的に妊娠が難しくなることがあります。そのため、治療開始前に卵子を凍結保存し、治療後に妊娠の可能性を残しておくという選択肢が重要になります。

 最近は、小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者さんでも、将来の妊娠・出産に備えた生殖医療の必要性が広く認識されつつあります。

 社会的卵子凍結も医学的卵子凍結も妊娠を希望する時期が来たら、凍結した卵子を解凍(融解)し、顕微授精により受精卵を作り、子宮へ戻す(胚移植)ことで妊娠を目指します。

 ◇採卵は1回で終わらぬことも

 卵子は凍結・融解の過程でダメージを受ける可能性がありますが、当院の場合、最先端の技術を用いて卵子の融解後の生存率は96〜98%と高い水準を維持しています(従来は約85%)。

 凍結卵子を用いた妊娠率は、不妊治療として行われている体外受精や顕微授精による胚移植と同等の成績が得られています。また、凍結卵子での治療では、必ず顕微授精が必要となります。

 卵子凍結の費用については「社会的」も「医学的」も局所麻酔の場合で1回に38万〜47万円程度が平均となります。ただし、使用薬剤の種類や量、追加検査の有無、麻酔の方法、凍結個数により前後します。

 また、採卵一周期で十分な数の卵子が採れるとは限らず、複数周期必要となることも視野に入れておく必要があります。

 卵子凍結をしたからといって、必ず妊娠・出産できるわけではありません。また、時期の先送りには高齢出産のリスクも伴います。でも、私はライフスタイルやキャリアを大切にしながら「将来子どもを望む可能性を残しておく」ための重要な選択肢だと思います。

 女性それぞれが、妊娠の可能性が高いうちに産みたいと思えば産める社会が理想ですが、将来子どもを持ちたいと考えるならば、若いうちからライフプランとして妊娠、出産の時期をあらかじめ考えておくことも重要です。(リプロダクションクリニックCEO 石川智基)

引用元:
卵子凍結 将来子どもを望む場合の選択肢に…先送りにはリスクも(Yahoo!ニュース)