子宮にすむ細菌の集まり「子宮内フローラ」のバランスを薬で整えて妊娠しやすくする不妊治療が注目されている。子宮内に乳酸菌が多いと妊娠率が高くなることが近年国内外の研究で指摘され、フローラの状態を調べる検査は国の先進医療に認定された。専門家は有望な不妊治療になり得ると期待を寄せる。
子宮にすむ乳酸菌のラクトバチルスの電子顕微鏡写真(株式会社サンテ研究所提供)
▽ラクトバチルス
子宮や卵管、膣(ちつ)といった女性生殖器には体全体の9%の細菌が生息して独特の環境を保っている。そのうち子宮内の細菌は膣の1万分の1〜100分の1と少ないため検出が難しく、長年無菌だと考えられていた。子宮にもフローラ=細菌叢(そう)=があると分かってきたのは、ゲノム(全遺伝情報)の解析技術が発達した10年ほど前からだ。
2016年には米スタンフォード大のチームが、「ラクトバチルス」という乳酸菌の仲間が子宮内フローラの90%以上を占めていると妊娠率が高くなると報告した。
糖を分解して乳酸を出すラクトバチルスが、受精卵の着床を邪魔する悪玉菌の増殖を防ぎ、妊娠の可能性を高めると考えられている。
東京の医療用検査会社バリノスやスペインのアイジェノミクスが子宮内細菌の種類や量を調べる検査を実用化。これらの検査は22年、将来的な保険適用の可能性を見定めるために有効性を評価する厚生労働省の先進医療に認定された。厚労省などによると、200余りの医療機関で、25年6月までの1年間に約1万9千件の検査が行われた。
▽着床不全や内膜炎
検査は体外受精での妊娠に繰り返し失敗した着床不全の人や、慢性子宮内膜炎の疑いがある人が対象。膣から細いスポイトのような器具を入れて子宮内膜の組織を吸い取り、どんな細菌の遺伝情報が含まれているかを分析する。
ラクトバチルスが少ない場合は、抗生物質で悪玉菌を減らしたり、内服や膣剤でラクトバチルスを補充したりする治療が行われている。
京野アートクリニック高輪(東京)など五つの不妊治療クリニックは共同で、慢性子宮内膜炎が疑われる患者124人に子宮内フローラの検査をして結果をまとめた。ラクトバチルスが90%未満の場合、治療をしなかった人の妊娠率が18%だったのに対し、治療をした人は63%と高かった。一方、ラクトバチルスが90%以上だった人は、治療をしてもしなくても妊娠率は40〜50%程度で顕著な差はなかった。
検査や治療を取り入れているさくら・はるねクリニック銀座の三木明徳医師は「不妊治療では妊娠しない要因を一つずつ検討していくことが大事だ。その一つとして子宮内フローラ検査が有効だと考えている」と話す。
▽検証段階
東京大病院の広田泰教授(産婦人科)らのチームは、着床不全の患者73人に子宮内フローラの検査を受けてもらった。ラクトバチルスが90%未満だった人に抗生物質と乳酸菌膣剤を投与すると、元々ラクトバチルスが多かった人よりも妊娠率が高くなった。
チームは子宮の状態を調べる他の検査も同時に行ったが、異常があった人に治療をして妊娠率に差が出たのはフローラの検査だけだった。
この結果について広田さんは「フローラが不妊の原因になっている人をうまく選び出せている可能性がある」と説明、「検査と治療に効果がありそうだ」と手応えを示す。一方、ラクトバチルスの種類によって乳酸を出す能力や合う治療が異なる可能性もある。「症例を増やし、何が最適な検査と治療法か探っていく」と話し、検証段階であることを強調した。(共同=水石さおり)
引用元:
子宮の細菌整える不妊治療 乳酸菌で妊娠率向上狙う 先進医療認定で検査拡大(47NEWS)