交配や解剖に依存する従来の生殖毒性試験、時間的コストと3Rs遵守の課題があった
北海道大学は1月6日 、雄マウスの精子形成を生体内でリアルタイム可視化できる新しい遺伝子改変動物モデルの開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院保健科学研究院の福永久典准教授(環境健康科学研究教育センター副センター長)、同大大学院医学研究院の白土博樹教授、大阪大学微生物病研究所の宮田治彦准教授、英国クイーンズ大学ベルファストのケヴィン プライズ教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「MedComm」にオンライン掲載されている。
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男性生殖機能に対する医薬品、環境化学物質、放射線などの影響を評価する生殖毒性試験は、新薬開発や環境リスク評価において不可欠なプロセスである。しかし従来の評価手法は、マウスを実際に交配させて受胎の有無を確認したり、精巣を摘出して組織学的解析を行ったりする方法が中心であり、結果が得られるまでに長い時間と多大な労力を要するという課題があった。交配、妊娠、出産にかかる不確実性の問題や、生殖毒性の発現が精子形成におけるどの過程で生じるのかなどを評価するためには解剖が欠かせないこともあり、生殖毒性試験には数多くの成熟雌雄動物(げっ歯類)を必要とするため、国際的に推進される「動物実験の原則3Rs」、特にReduction(使用動物数の削減)の取組みが遅れている状況だった。
遺伝子改変で精子が光るマウスを作製、同一個体で長期観察が可能に
研究グループは、減数分裂期に特異的に発現するタンパク質Acrosin(Acr)に発光タンパク質Luciferase(Luc)をノックインするという遺伝子工学的アプローチを用いて、精子形成の進行に合わせて生殖細胞がルシフェリンと反応して発光するように遺伝子改変したモデル動物(Acr-Lucノックインマウス)を作製し、雄の生殖機能を生体内で非侵襲的に長期観察できる新たな可視化技術を確立した。
検証実験では、発光強度が生殖細胞数と強く相関することを確認し、ルシフェリン投与に伴う発光シグナルが精子形成を反映する指標であることを実証した。さらに、このマウスは1年間以上の長期にわたり安定した発光を維持することも確認された。これにより、精子形成能の生理的変化、慢性的な毒性、環境曝露の影響などを「同一個体で長期間追跡できる」という革新的な評価手法が実現した。
生殖細胞系に典型的な放射線応答を可視化、線量と不妊リスクを統合的に評価
放射線照射を用いた検証実験では、照射後4週で発光がいったん完全に消失し、精子形成が停止すること、5Gy(吸収線量)群では8〜12週で発光が回復し、一時的不妊が可逆的に改善すること、10Gy群では観察期間中に発光が回復せず、不可逆的な障害に至ることという「生殖細胞系に典型的な放射線応答」を生体内で直接・連続的に可視化することに成功した。
さらに、放射線挙動解析コードを用いた高度な精巣線量推定と組み合わせることで、線量と不妊リスクを統合的に評価できる技術基盤も確立した。
これらの成果から、Acr-Lucノックインマウスは、従来の交配試験や解剖に依存した手法では困難であった生殖毒性の発現と回復を、経時的・定量的に可視化できる革新的な前臨床プラットフォームとして有望であることが明らかになった。
創薬研究や環境曝露評価などで応用、3Rs実現と評価効率化に期待
「光る精子」というユニークな特徴をもつAcr-Lucノックインマウスは、生殖毒性試験の効率化だけでなく、創薬研究、環境曝露評価、がん治療後の男性不妊リスクの検討など、多様な分野で活用が期待される革新的モデルである。生殖毒性試験においては、交配・妊娠・出産といった不確実性を伴う工程を大幅に削減でき、使用動物数の削減(3Rsの実現)と評価効率の飛躍的向上に寄与することが期待される。
「OECD試験ガイドラインやICH S5(R3)に沿った安全性評価においても有用な補完手法となり得る。また、医薬品開発や環境化学物質のリスク評価では、生殖毒性の有無だけでなく、どの時期の生殖細胞が影響を受け、どのように回復するかまで可視化できるため、作用メカニズムの解明にも貢献することが期待される。さらに、がん治療と男性不妊に関する研究分野では、放射線・化学療法後の造精機能障害や回復過程を高精度に追跡できることから、生殖機能保護・回復促進の戦略開発を支える基盤技術としての活用も考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)
引用元:
生殖毒性評価に「光る精子」マウス開発、経時的に機能追跡可能−北大ほか(医療NEWS)