約8.6人に1人。
これは、国内の年間出生児数における体外受精によって生まれた子どもの割合だ。日本産科婦人科学会の発表によれば、2023年には体外受精による出生児数が過去最多の8.5万人を記録している。
【全画像をみる】トヨタ流「カイゼン」で不妊治療を変える――元自動運転エンジニアが挑む、生殖補助医療の自動化
日本の出生数は過去最少を更新し続け、2025年の出生数は70万人を割り、約66万人ほどになるとの推計もある。
ライフスタイル・価値観の変化や晩婚化など、少子化が進む背景はさまざまあるが、一方で急増しているのが「不妊治療」の需要だ。2022年4月から体外受精や顕微授精といった不妊治療が保険適用となり、治療へのハードルが下がったものの、現場では深刻な「供給不足」をはじめとする課題が浮き彫りになっている。
そんな「命の現場」に、まったくの異業種である自動車業界から参入した男性がいる。トヨタ自動車出身で、アークスの棚瀬将康CEOだ。「クルマ」から「生殖医療」へ。一見すると脈絡のないこのキャリアチェンジの裏には、製造業で培った品質管理の技術と、職人作業に依存する生殖医療現場の課題を解決しようとする強い想いがある。
トヨタで培ったエンジニアの技術
大学院でロボット工学を修めた後、新卒でトヨタに就職した棚瀬さん。日本を代表する世界的な自動車メーカーには、「安定した就職先」というイメージがある。ただ、棚瀬さんの目線は当初から少し違っていた。
「社会人になるにあたり、既存のレールの上で頑張るよりも、自らチャレンジして社会にインパクトを与える事業を興したいという気持ちが強くありました。 エンジニアとしてロボットを研究してきたので、それをベースにまずは研鑽を積もうとトヨタを選びました」(棚瀬さん)
配属されたのは量産車の設計開発部門。そこで彼が担当したのは、当時草創期にあった先進安全技術パッケージ「Toyota Safety Sense」の開発だった。自動ブレーキ、レーンキープアシスト、車間距離制御。いわゆる自動運転レベル2にあたる運転支援システムであり、人の命を預かる最重要機能の一つである。
車載カメラやレーダーで前方の障害物を検知し、瞬時にリスクを計算してブレーキを制御する。この「センシング(認識)」「判断」「アクチュエーション(操作)」という一連のプロセスを、棚瀬氏は実地で学んでいった。数十万台、数百万台という規模で世に出る製品において、いかに品質を保証し、安全を担保するか。このときに培われた「エンジニアとしての技術」が、後の起業における核となる。
第二世代の安全技術開発に一通り携わったあと、棚瀬さんはトヨタを去る決断をする。次なる舞台として選んだのは、当時ディープラーニングの実装が叫ばれ始めていたAIスタートアップの世界だった。
棚瀬さんは、AIとニューロテックの分野で知られるアラヤに参画。その後、手術支援AIシステムを手掛けるJmees(ジェイミーズ)では創業早期のスタートアップで事業立ち上げも経験する。また、そこで初めて「医療」というフィールドに足を踏み入れることになる。
自動車と医療。まったく異なる世界に見えるが、棚瀬さんにとっては地続きに感じられたという。
「医療に求められることも、観点としてはトヨタで行っていた『品質管理』と同じだと感じました。 医療機器も、自動ブレーキも、目的は『命を守るため』です。事故をゼロにするというミッションは共通しています」(棚瀬さん)
木下衛
引用元:
トヨタ流「カイゼン」で不妊治療を変える──元自動運転エンジニアが挑む、生殖補助医療の自動化(Yahoo!ニュース)