広島県神石高原町に、2004年の合併後初となる産科医院と助産院が完成した。神奈川県のクリニックで院長を務めた日下剛医師(58)が家族と移住し、医療介入のない自然な分娩(ぶんべん)ができる環境を整えた。少子化や医師不足の影響で地方でお産のできる施設が減る中、日下医師は「子どもを産み、育てることに心から幸せを感じられる人々が増えるような医療を提供したい」と意気込む。(林佳代子)
【画像】入院用の個室。リラックスできるよう普段の照明は暗めにし、分娩時は明るくなるよう設定可能という(広島県神石高原町で)
完成したのは「神石のたまご産婦人科」と「神石のたまご助産院」。同町坂瀬川の旧交流施設を町が有償で貸し出し、町内に拠点を置くまちづくり会社「MSERRNT(マサーント)」が改修資金を一部援助して誘致した。産科医院は2日に開業し、助産院は10月1日から診察を始める。
母体に負担少ないお産を
日下医師は北海道出身。旭川医大を卒業後、道内の病院で産婦人科医として勤務していたが、陣痛促進剤の使用や帝王切開など出産時の医療介入に疑問を持つようになった。「もっと母体に負担の少ないお産に取り組みたい」との思いから、07年に神奈川県内の医療法人徳洲会系列の総合病院に移籍。16〜24年には、病院がサテライトで新設したクリニックで院長を務めた。
クリニックでは、「緊張を強いたくない」として分娩台を置かず、個室でリラックスして出産できる環境を整備。産後ケアにも力を入れたが、法人の経営方針で分娩の扱いを中止することになり、退職した。
その頃、東京都内を中心に鍼灸(しんきゅう)院を経営する妻(47)から、マサーントが神石高原町で開業したい産婦人科医を探していると聞いた。町を訪れると、住民から温かいもてなしを受けた。日下医師は「自然が豊かで、住民同士の距離が近い。この場所なら、理想のお産を実現できるだけでなく、地域で一体となって子どもたちを育むことができる」と開業を決めた。
畳に敷いた布団の上で
「神石のたまご」は診察室に入院用個室3室を併設し、畳に敷いた布団の上で自然な分娩を促す。助産師は6人体制で、常勤2人は千葉県浦安市と広島市から移住した。
町子育て応援課は「地域医療の向上のほか、定住促進につながる」と期待するが、町内で24年の出生数は20人にとどまる。いかに町外からの外来を増やすかが経営面の課題で、里帰り出産とともに産前産後ケアを充実させ、事業の継続性を確保していく考えだ。
日下医師は「住民からは小児科がほしいという声も寄せられている。まずは経営を軌道に乗せ、継続的に地域医療に貢献できるように施設を発展させていきたい」と話す。
広島県内の11市町「空白地帯」
県医療介護政策課によると、県内で分娩を扱う医療機関の閉院などが相次ぎ、2006年から23年にかけて診療所はほぼ半減し、病院は4割ほど減った。現在全23市町のうち、竹原と府中、大竹、安芸高田、江田島の5市と、熊野と坂、安芸太田、北広島、大崎上島、世羅の6町の計11市町が出産施設のない「空白地帯」だ。
花田英臣課長は「出生数の減少で、産科医院や助産院の経営は極めて厳しい。医師の高齢化もあり、分娩の扱いを中止する医療機関は今後も増えるだろう」と分析する。
県は24年にまとめた第8次保健医療計画で、圏域ごとの医療連携体制を構築する必要性を強調。分娩を扱わない医療機関は妊婦健診を積極的に受け入れ、分娩リスクの高いケースは周産期母子医療センターで対応するなど役割分担を明記している。
引用元:
出生数20人の町で医療介入のない自然分娩…神奈川の医師が移住し出産施設オープン(Yahoo!JAPANニュース)