厚生労働省は、出産にかかる費用の自己負担を無償化する方針を決めた。早ければ2026年度からの実現を目指す。政府は、無償化によって、歯止めがかからない少子化の対策につなげたい考えだ。希望する人が経済的な心配をせず、出産に臨めるようにするのは大切である。
ただ無償化の実現には、産科医療機関の経営や公的医療保険の財政負担の問題が関わってくる。妊産婦の経済的な負担を軽減すると同時に、どこにいても安心して出産に臨める医療体制を整える方策が求められよう。
厚労省がおととい公表した人口動態統計(概数)で、24年に生まれた子どもの数は68万6千人余りと、初めて70万人を割り込んだ。政府推計より15年早いペースで少子化が進んでいる現実がある。
出産のうち、帝王切開などの場合は病気やけがと同様に保険が適用される。しかし正常分娩(ぶんべん)の場合は適用対象外で、医療機関ごとに価格が異なり、地域差も大きい。
24年度上半期の全国平均は51万8千円だ。都道府県別で見ると、東京が64万6千円と最も高く、最も低い熊本の40万2千円とは20万円以上の差がある。
現状では出産の際、公的医療保険を通じて出産育児一時金が支給される。23年には42万円から50万円に増額された。それでも約半数は費用の持ち出しがあるという。
厚労省の有識者検討会の報告によると、アンケートで「子どもを産み育てやすい社会と思わない」と回答した乳幼児の父母の8割以上が、「経済的・金銭的な負担が大きい」を理由に挙げたという。出産にかかる負担軽減は社会の要請といえよう。
問題は、厚労省がこれから検討するという無償化のための制度設計である。正常分娩に公的医療保険を適用する案や、一時金を増額する案が提起されている。
しかし保険を適用するには難題がある。全国一律の診療報酬を決めなくてはならないことだ。分娩は一人一人経過が異なる。医療機関が個々に決めているそれぞれの費用の、何をもって「標準的な出産費用」とするのか、確定は容易でないという。
産科医側には、価格設定次第で経営が厳しくなるとの懸念が大きいようだ。産婦人科医会が会員を対象にした調査では、590施設のうち401施設が、保険が適用された場合、「分娩取り扱いを中止」「制度内容により中止を考える」と回答している。
それでなくても、すでに多くの産科医療施設が分娩から撤退している。地方によっては、産科の医師不足で分娩に対応できる医療機関がない地域も生じている。無償化を急ぐあまり、周産期医療を危機にさらすことになってはならない。
希望する人が安心して、安全に出産できる環境を整えるため、現場の声も踏まえた十分な議論が要る。産むことへの経済的なハードルを下げれば、少子化問題が即解決とはいかない。総合的で重層的な対策が不可欠だ。
引用元:
出産費用の無償化 安心して産める環境整えよ(中國新聞デジタル)