誰でも幼いうちに一度はかかるRSウイルス感染症。風邪のような症状が現れ、免疫が弱い乳幼児では重症化の懸念もある。特効薬は存在せず、対策の基本は対症療法だ。だが昨年、妊婦に接種することで赤ちゃんの感染を予防する新たなワクチンが登場した。医師らは周知のための取り組みを始めている。
RSウイルス感染症のワクチン「アブリスボ」(ファイザー提供)
▽4人に1人
RSウイルスは飛沫(ひまつ)や接触で広がり、のどや鼻、気管などで増殖する。主な症状はせきや発熱だが、重症化して肺炎や細気管支炎を引き起こすことがある。成人での重症化はまれだが、2歳未満では年12万〜14万人がこの感染症と診断され、4人に1人は入院が必要になると推定されている。症状を和らげる酸素投与や点滴などの対応が一般的だ。
特にリスクが高いのは、成人でも基礎疾患がある場合や、生後6カ月未満での感染だ。症状が消えてからも数週間はウイルスの排出が続く恐れがあり、園や学校などでの集団感染につながりやすい。保育園での乳児の集団生活や、学校で感染したきょうだいから感染し、重症化するケースが目立つ。
感染予防には、大人であれば手洗いやマスク着用など基本的な対策が有効だ。「ただ、生まれたばかりの赤ちゃんには難しい」と、日本小児科医会業務執行理事の峯真人医師は指摘する。保育施設の利用を控え、症状のある家族との接触を減らすことが対策にはなるが「乳幼児を周囲の人から切り離すのは無理がある話だ」と語る。
ワクチン啓発用のチラシを紹介する日本産婦人科医会の倉沢健太郎常務理事=横浜市神奈川区
▽妊娠24〜36週
この厄介な感染症に対し、2024年5月から自己負担での接種が可能になったのが組換えRSウイルスワクチン(製品名「アブリスボ」)。妊娠24〜36週の妊婦に打つワクチンだ。重症化の懸念がある60歳以上の成人も接種を受けられる。
妊婦が接種を受けると母親の体内でウイルスに対する抗体がつくられ、この抗体が胎盤を通じて胎児へ移って生後の感染を防ぐ仕組み。「母子免疫ワクチン」と呼ばれる。
日本を含む18カ国から約7千人の妊婦が参加した臨床試験では、接種を受けた集団はプラセボ(偽薬)を接種された集団に比べ、生まれてから半年までの重症化を69%抑えたと報告された。
不活化されて感染性は失われており、母子に対する安全性の懸念は認められなかったとしているが、使用に当たっては副反応として妊婦に重いアレルギー反応のアナフィラキシーや、接種した部位の痛みや頭痛が生じることに注意が必要になる。
既に米国や欧州連合(EU)、英国、オーストラリアなどで承認され、英国では昨年9月から、妊婦への無料接種が可能になっている。
▽体制整備
日本産婦人科医会の倉沢健太郎常務理事によると、課題はこのワクチンについて妊婦や医療関係者への情報提供が不十分なことだ。同医会が24年、全国約1900の医療機関から回答を得たアンケートでは「ワクチンの発売を知っているか」との設問には40%が「いいえ」と回答。「接種を予定しているか」との設問には19%が「はい」、28%が「いいえ」を選び、未定が大半を占めた。
接種を見合わせている理由として複数回答で最も多かったのは「情報が足りていない」の29%。医会は、有効性や安全性、費用などの情報を周知するため、啓発用動画やチラシを作り、ウェブサイトで公開している。
ワクチンに関する適切な情報提供や信頼性の向上を図るには、産科・産婦人科医や小児科医ら医療関係者間の連携も重要になる。倉沢さんは「時間はかかると思うが、希望者が接種を受けられる体制を粛々と整えていきたい」と語った。(共同=七井智寿)
引用元:
妊婦に接種、赤ちゃん守る RSウイルスワクチン 情報周知へ取り組み(47NEWS)