妊娠中や幼い子どもがいるみなさん。大きな災害が起きたらどこに避難しますか?避難所へ行くにしても、たくさんの人が身を寄せる場所で子どもは大丈夫だろうか?体調は悪くならないか?心配ですよね。「妊婦や子ども連れだけの避難所があると安心できるのに」 …専用の避難所はあるのでしょうか?現状を取材しました。
(社会部/記者 宗像玄徳)
目次
・妊産婦や乳幼児の専用避難所は(東京23区・県庁所在地・政令指定都市)
・子連れ避難生活した母親は
・人気の施設を避難所に 狙いは
・環境改善を一緒に検討する自治体も
・災害時の健康リスクは(妊婦・乳幼児)
妊産婦や乳幼児の専用避難所は?
避難所で過ごす親子
東日本大震災や熊本地震などでは、避難所へ行くことをためらう妊婦や幼い子ども連れが相次ぎました。
避難所へ行くことをためらう理由
・子どもの泣き声が周りに迷惑をかけるのではないかという不安
・授乳室がない など
→国は、妊産婦や乳幼児を受け入れる専用の避難所や、一般の避難所の中に専用スペースをあらかじめ用意しておくといった対応を自治体に求めています。
首都圏の設置状況は
NHKは、東京23区と関東地方の県庁所在地、政令指定都市に、妊産婦や乳幼児専門として受け入れる避難所を設置しているか尋ねました。
その結果、▽専用の避難所をすでに設置したのは9区、▽設置に向けた検討を進めているのは4つの市と区であわせると対象のおよそ42%にとどまり、東京・神奈川・埼玉に集中しています。
◯妊産婦・乳幼児専用の避難所
「設置している」と回答(9区)
文京区、台東区、目黒区、大田区、世田谷区、中野区、豊島区、北区、荒川区
荒川区は、子育て世帯の遊び場になっている区の複合施設を避難所にしている
「設置に向けて検討している」(4つの市と区)
葛飾区、横浜市・さいたま市・杉並区
横浜市は能登半島地震をきっかけに避難所の整備が本格化し、将来的にはすべての区に少なくとも1か所設ける計画だということです。
「設置していない」と答えた自治体
専用の避難所を設置していない自治体のほとんどは、学校など、一般の避難所のなかで場所を分けるとしています。どの部屋に入ってもらうかまで決めているところや、高齢者や障害者も「要配慮者」として同じスペースに入ってもらうという自治体もあります。このうち、東京・墨田区は、専用の避難所ではないとしたうえで、妊産婦や乳幼児も含めた要配慮者の避難所として民泊として使われているマンションなどを活用することにしています。
また、専用の避難所を設置していない自治体の中には▽必要性は認識しているが、場所の確保が難しい、▽高齢者などと比べて支援が必要な人数の把握が難しい、▽高齢者への支援が優先される傾向にあるなど、体制づくりが難しい実情も寄せられました。
神奈川県立保健福祉大学大学院 吉田穂波 教授
「妊産婦や乳幼児の健康へのリスクがようやく認識されはじめ、専用の避難所は広がりつつあるものの、去年の能登半島地震でも依然、妊産婦や乳幼児の避難が課題のひとつになっていて避難所の環境をつくる取り組みをさらに進める必要がある」
子連れ避難した母親“ストレスで厳しい”
去年の能登半島地震で幼い子どもたちと避難生活を経験した母親は、一般的な避難所では相当なストレスを感じたと当時を振り返り、専用の避難所の重要性を訴えています。
当時の避難所
避難生活の状況(輪島市に住む37歳母親の場合)
・能登半島地震の際、海岸付近に自宅があったことから当時4歳と2歳の子どもと避難生活を送る。
・市内の公共施設ではどの部屋も人がいっぱいで、8畳ほどの部屋に家族も含めて10人以上が雑魚寝する状況。
・シングルサイズの敷き布団1枚に3人で「川の字」のように身を寄せ合って寝た。
子どもたちは声を出して遊ぼうとしますが、母親は周囲に気を遣って注意することが増え、子どもたちは不機嫌になってまた注意が増える、という悪循環に陥っていたそうです。
さらに、部屋の明かりは夜遅くになっても消えることはなかったといいます。
子ども2人と避難生活した母親
「子どもが疲れて寝落ちするのを待つしかなく、『頼むから寝てください』と思うような状況でした。日中も注意ばかりでストレスがすごく大きく、心身ともに『厳しいな』と何度も思いました」
親子の心を救った専用避難所
こうした中、市内の保育園に妊産婦と乳幼児専用の避難所が開設されたことを知り、その後、2か月近く過ごしました。
専用避難所で走る子ども
場所が保育園だったこともあって子どもがけがをする危険性も少なく、子どもたちどうしで走り回ることもでき、大人も子どももストレスを感じることが少なくなったといいます。
子ども2人と避難生活した母親
「子どもたちがのびのびとできる場所を確保することは、心のケアにもつながるし、子どもどうしが笑って遊ぶ姿を見て私も気持ちが楽になりました。安心して過ごせる場所にいることで、仕事など次のステップを考えることができると思うので、専用の避難所で過ごせたことは大きかったです」
葛飾区・人気施設を避難所に
能登半島地震を踏まえて妊産婦や乳幼児専用の避難所設置を急ごうという自治体もあります。
東京・葛飾区は、2025年度、妊産婦とおおむね生後6か月までの乳児を受け入れる避難所を設置する予定です。
これまでの災害で避難をためらう妊産婦がいたことから対象として選んだのは「児童館」のほか「子ども未来プラザ」という妊婦の相談を受け付けたり子ども向けの催しを開いたりしている区独自の、子育て関連施設です。
このうち「子ども未来プラザ鎌倉」は、授乳室やおむつを替えるための台、ミルク作りに必要なお湯が出る機器のほか遊具のある園庭もあり、災害時はここで40組の家族を原則として1週間受け入れることにしています。
また、ふだんこの施設を運営する保育士などが災害時は対応にあたります。
葛飾区 土屋文彦 子育て政策課長(取材当時)
「ふだん施設を利用するなかで災害時はここが避難所になると自然と知ることで、いざというときの避難行動につながると考えています」
環境改善を一緒に検討する自治体も
避難所を確保しただけでなく、災害時に十分機能するよう、妊婦や幼い子ども連れと一緒に検討を続ける自治体もあります。
大阪・泉大津市の場合
・ホテルを妊産婦と乳児専用の避難所にしている
・2023年から年に1度、妊婦や幼い子ども連れを対象に1泊2日の避難訓練を行う
訓練の参加者は自宅から非常用の食料などを持ち込んで2日間の避難生活を体験します。
狙いは子育て世帯の防災への意識を高めることだけでなく、参加者が訓練を通して困ったことや気づいたことを意見交換しながら、環境の改善につなげることにあります。
赤ちゃんテントを客室で使用
これまでの訓練では、「ベッドから赤ちゃんが落ちるのではと心配でなかなか眠れなかった」という声を受けて、赤ちゃん用のテントを備蓄しました。
このテントは床やベッドに置いて赤ちゃんを寝かせることができ、ことしの訓練では実際に参加者にも体験してもらいました。
また、これまでの訓練で、体調が悪くなり途中で帰宅する妊婦がいたことからことしの訓練には助産師も加わってもらい健康相談を受け付けました。
これをきっかけに市は、災害時の支援の協力について助産師会と協議を進めることにしました。
ことしの訓練では、参加者から、次のような指摘や気づきが寄せられました。
参加者
風呂とトイレが一緒なので、親ひとりで子どもを風呂に入れるのが大変だった。
参加者
避難が長期になると子どもの爪切りがあったら便利だと思う。
市は、ベビーバスや爪切りを備蓄に加えることができないか検討したいとしています。
泉大津市 政狩拓哉 危機管理監(取材当時)
「実際に避難する場所で意見交換をして気づきを得てお互いの備えに生かすことが、安心できる避難所をつくるために大事だと思います」
災害時の健康リスクは
産婦人科医でもあり、東日本大震災の発災時、宮城県石巻市の避難所などで医療支援にあたった神奈川県立保健福祉大学大学院の吉田穂波 教授は、災害時のストレスや孤独感で早産や低出生体重児、抑うつ状態に陥るおそれがあり妊婦や赤ちゃんの健康に大きな影響を及ぼしかねないと訴えています。
吉田教授は地震直後、避難所のすみでひっそりと過ごす妊婦を目の当たりにして衝撃を受けたといいます。
神奈川県立保健福祉大学大学院 吉田穂波 教授
「妊婦は見た目は健康そうで、おなかの中にもうひとつ大切な命があると外からわかりにくい場合もある。避難所では妊婦は少数なので、自分から声を上げづらくそのため支援が行き届かず孤立していた」
こうした東日本大震災の課題を踏まえて、国は避難所の運営に関するガイドラインのなかで、▽妊産婦や乳幼児が要配慮者用のスペースや個室を利用できるようにあらかじめ考えておくことや、▽専用のスペースに移動させて、母子の支援を行うことが重要だとしています。
専用の避難所の確保までは義務づけていませんが、専用の避難所も含めて妊産婦や乳幼児に配慮した避難所の確保や整備の検討を呼びかけています。
南海トラフの想定でも
ことし3月に公表した南海トラフ巨大地震の国の新たな被害想定では妊産婦は発災後の状況によって災害関連死につながるリスクが高く、対応が必要な人とされ、地震から1週間で避難所で過ごす妊産婦は最大で8万人にのぼると推計されました。
想定では、被害が深刻な地域では発災から数日から1週間が過ぎると衛生状態の悪化によって▽妊婦は流産・早産のほか妊婦高血圧症候群になるリスクが、▽乳幼児は感染症にかかるリスクがそれぞれ高まるとしています。
多くの人で混雑した避難所での生活や車中泊が続くと妊婦や乳幼児は血栓ができて血管がつまる、いわゆるエコノミークラス症候群の発症リスクが高いとされています。
乳児は、おおむね1週間後になるとアレルギー対応の食事が手に入らなかったり、哺乳瓶の消毒ができなかったりという状況に陥り重大な健康障害のリスクが高まるとされています。
内閣府防災担当の担当者
「同じ要配慮者の高齢者や障害者と比べると妊産婦や乳幼児に特化した避難所は少ないといえる。自治体には専用の避難所の重要性も認識してもらいながら、妊産婦や乳幼児を意識した避難所づくりに取り組んでもらいたい」
引用元:
妊婦や乳幼児 災害時の避難どうする?専用避難所設置の自治体まとめ 子連れ避難のリアルとは(NHK首都圏ナビ)