がんの中で女性が最もかかりやすい乳がんの5年生存率は90%を超え、治りやすいとの印象がある。しかし、同じ乳がんでも実は大きく四つの種類に分かれる。そのうち「トリプルネガティブ」と呼ばれるタイプは再発や転移の可能性が高く、治療が難しいことで知られる。この難治性乳がんに対する新薬「トロデルビ」が2024年に保険適用になり、関係者は「待望の薬剤登場だ」と期待をしている。
▽たちの悪さ
「乳がんの進行はゆっくりで、治療後の経過も良好だと思っている人が多い。検査でトリプルネガティブと分かり、患者に説明すると、そんなにたちが悪いのかと驚かれる」と話すのは、長年乳がんの診療に携わってきた名古屋市立大臨床研究戦略部の岩田広治特任教授。
長年、乳がんの診療に携わってきた名古屋市立大の岩田広治特任教授=名古屋市瑞穂区
乳がんは、年間9万数千人が発症し、女性の罹患(りかん)数で1位。ただ、死亡数では大腸、肺、膵臓(すいぞう)に次いで4位と、治療成績が比較的良好だ。
がん細胞には、特定の物質とくっつく受容体や抗原があり、これらを標的としてがん細胞を攻撃する治療戦略を採ることが多い。乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンにくっつく受容体と、HER2(ハーツー)と呼ばれる増殖因子の受容体が存在するか否かで4種類に分かれる。
エストロゲン受容体が存在、つまり陽性なら女性ホルモンの結合を阻害するなどしてがんの増殖を抑える「ホルモン療法」が有効で、HER2受容体が陽性の人には、HER2抗体を投与することで増殖を抑える治療が行われてきた。
しかしこの両方の受容体が陰性の場合、特にエストロゲン受容体が陰性の場合は女性ホルモンに関連するプロゲステロン受容体も陰性の場合が多く、三つの受容体が陰性という意味で「トリプルネガティブ(TN)」と呼ばれている。使える薬剤も少なかった。
▽遺伝性も
TNの乳がんは進行が速く、転移・再発も多い。しかも、遺伝性の乳がんの割合がほかのタイプに比べて多いこともあり、30代後半から40代前半と若い世代の発症が多い。TNは乳がん全体の約10%を占め、岩田さんは「骨や肺、肝臓などに転移したり再発したりすると、余命は平均1年程度」と指摘する。
だが、近年、TNの乳がんの細胞表面にも「Trop2(トロップツー)」という抗原があり、この抗原を標的にした薬剤が開発された。薬剤は抗原にくっつく抗体に、細胞を傷害する薬物を搭載したもの。Trop2抗原を足掛かりに細胞内に取り込まれた後、内部から細胞を傷害し、さらに薬物が細胞の外に出て近くにいるがん細胞も傷害する「バイスタンダー(傍観者)効果」も期待できるという。
抗がん剤を既に1剤使った後のTN乳がん患者を対象にした欧米の臨床試験で、平均生存期間が約7カ月から約12カ月へと改善し、21年に米国、次いで欧州でも承認された。国内での臨床試験を経て、厚生労働省が24年9月に承認、11月には保険適用になった。
▽副作用の対処
治療対象は、抗がん剤に効果がなかったTN乳がんで転移などのため手術不能、または手術後に再発した患者。岩田さんによると、副作用として白血球の減少や吐き気などの消化器症状、脱毛が起こる場合があるが、いずれも対処可能という。
将来的には抗がん剤の使用経験がなくても転移または再発したTN乳がんの最初の薬物治療として使うことを狙い、日本も含めた国際的な臨床試験が行われている。
岩田さんは「新しいメカニズムの新薬が国内で承認され、難治性の乳がん患者にとって朗報だ」と話している。(共同=戸部大)
引用元:
難治性乳がんに新薬 トリプルネガティブに適用 再発・転移の多い種類(47NEWS)