いま、国内のお産に関わる医療は、岐路に立っています。
少子化に伴う経営難や医師不足によって、出産施設が減少しているからです。
そうした中、お産を担う施設が1つもない「分べん空白市町村」が広がっています。
どうすれば、安心して出産できる社会を実現できるのでしょうか。
(「お産の危機」取材班:北森ひかり・平井千裕)
「クローズアップ現代 “分べん空白”列島 赤ちゃんに危機が…」
2月26日放送
3月5日(水) 午後7:57まで NHKプラスで配信
↓動画はこちらから↓
クローズアップ現代 “分べん空白”列島 赤ちゃんに危機が…
分べん空白市町村とは
NHKは去年9月から10月にかけて医療計画を策定する都道府県に対し、出産施設の状況を調査しました。
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
その結果、全国1700あまりある市町村のうち、出産施設が1つもない自治体は1041市町村と、全体の6割近くにのぼることが分かりました。
10年ほど前と比較すると、▽出産施設が1つもない市町村の数が拡大したのは35都道府県にのぼり、▽変化がなかったのは8府県、▽縮小したのは4県でした。
こうした分べん空白市町村の広がりは、少子化によって産科機能の集約化を図らなければならないなど、やむを得ない地域も多くあるとも言われています。
それでも、病院まで遠くなる妊婦が出てくるため、負担を減らすため補助事業や、緊急時の迅速な対応など、自治体による支援や対策も重要になります。
そこで調査では、病院までアクセスに時間のかかる妊婦などに対する自治体の支援も聞きました。
みなさんの住む地域がどうなっているのか。
都道府県別の空白市町村と支援内容はこちらです。
質問1:現時点で把握している、分べん取り扱い施設が一つも無い市町村を、すべてお答え下さい。(分べん取り扱い施設:病院・診療所・助産所)
質問2:居住地やその近くに分べん取り扱い施設がなく、医療機関までのアクセスに時間がかかる妊婦や家族に対して実施している支援事業があれば、市町村名と具体的な内容を教えて下さい。
※各都道府県からの回答を掲載しています※
※支援は、何らかの取り組みの回答があった都道府県のみを記載※
北海道
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
北海道は179ある市町村のうち分べん施設がないのは153市町村。
10年前より、6か所拡大。
《支援》
「自宅などから出産施設までの距離が25キロを超える妊産婦に通院の交通費を助成」
東北
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼青森県は40ある市町村のうち33。
10年前と比べて2か所拡大。
▼岩手県は33ある市町村のうち24。
10年前と比べて2か所拡大。
▼宮城県は35ある市町村のうち23。
2012年と比べて5か所拡大。
▼秋田県は25ある市町村のうち16。
10年前と比べて1か所拡大。
▼山形県は35ある市町村のうち26。
10年前と比べて1か所拡大。
▼福島県は59ある市町村のうち51。
10年前と比べて4か所拡大。
《支援》
▼青森県は「遠隔地に住むハイリスクの妊産婦の周産期母子医療センターへの通院や、近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成」※NICU(新生児集中治療室)やGCUに入院した場合の面会時の交通費なども含む。
▼岩手県は「妊産婦の健診や出産のための通院、宿泊施設に待機宿泊する際の費用助成」※地域で条件異なる。
▼宮城県は「気仙沼市で出産施設までの交通費や宿泊施設に待機宿泊する際の費用助成」
「七ヶ宿町で妊婦健診の自己負担額と交通費を助成、出産の際に家族が医療機関の近くに宿泊する際の費用の助成」
「大河原町や川崎町でタクシーの利用を支援」※地域で条件異なる。
▼秋田県は「鹿角市で健診費用や交通費に充ててもらうため、5万円を給付」
▼山形県は「金山町で交通費と宿泊費を助成。※距離などの条件あり」
「村山地域、最上地域、置賜地域で妊婦健診を自宅や職場の近くで受けられるセミオープンシステムの実施」
▼福島県は「妊産婦の出産のための通院、近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成」
「宿泊施設に同行する人の宿泊費用を助成」※一部の市町村で実施。条件異なる。
関東・甲信越
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼茨城県は44ある市町村のうち20。
10年前と比べて変化はありません。
▼栃木県は25ある市町村のうち12。
10年前と比べて1か所拡大。
▼群馬県は35ある市町村のうち24。
2015年と比べて2か所拡大。
▼埼玉県は63ある市町村のうち27。
10年前に比べて3か所拡大。
▼千葉県は54ある市町村のうち25。
10年前に比べて5か所拡大。
▼東京都は62ある市区町村のうち12。
10年前に比べて1か所拡大。
▼神奈川県は昨年度で33ある市町村のうち17。
2015年度と比べて5か所拡大。
▼山梨県は27ある市町村のうち17。
こちらは10年前と比べて2か所縮小しました。
▼長野県は77ある市町村のうち59。
10年前と比べて1か所拡大。
▼新潟県は30ある市町村のうち18。
10年前と比べて4か所拡大。
《支援》
▼茨城県は「最寄りの出産施設まで60分以上かかる場合に交通費等の補助。一部地域で通院のタクシー費用を助成」
▼群馬県は「複数の市町村で、出産時の交通費や宿泊費を支援する予定」
▼千葉県は「松戸市、栄町、白子町、睦沢町、長柄町、長生村、大多喜町、酒々井町、多古町でタクシー利用時に助成」
▼東京都は「国の『妊婦に対する遠方の分娩施設への交通費及び宿泊費支援事業』を八丈町で実施」
▼神奈川県は「真鶴町と湯河原町で出産時の入院専用の救急自動車が駆けつける制度を実施し、事前の情報登録を呼びかけている」
「松田町で健診や出産時の通院のタクシー費用を助成」
▼山梨県は「北杜市、甲斐市、甲州市、市川三郷町で妊婦健診は近くで受け、出産は人員体制や設備の整った病院で行う、セミオープンシステムを導入」
▼長野県は「長野県は妊産婦の健診・出産のための通院、近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用やタクシー費用を助成」
「大町市や平谷村、飯山市では、通院の交通費を助成」
「伊那市では、妊産婦健診をオンラインで受けられるよう支援」
▼新潟県は「村上市、五泉市、妙高市、糸魚川市でタクシー費用を助成」
東海・北陸
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼富山県は15ある市町村のうち8。
2015年度と比べて2か所拡大。
▼石川県は19ある市町村のうち11。
10年前と比べて4か所拡大。
▼福井県は17ある市町村のうち10。
10年前と比べて変化はありません。
▼岐阜県は42ある市町村のうち22。
こちらは10年前と比べて2か所縮小。
▼静岡県は35ある市町村のうち11。
10年前と比べて2か所拡大。
▼愛知県は2022年度の時点で54ある市町村のうち19。
2014年度と比べて1か所縮小。
▼三重県は29ある市町村のうち16。
10年前と比べて1か所拡大。
《支援》
▼石川県は「輪島市、珠洲市、穴水町、能登町に住所がある妊婦を対象に、七尾市内の出産施設で、分娩前の事前宿泊を提供。(食事の提供・健康観察等を含む)」
▼福井県は「高浜町、若狭町で妊産婦の健診・出産のための通院、近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成する事業を実施予定」
▼岐阜県は「妊婦の出産施設への通院交通費や、宿泊費用を支援する事業を検討中」
▼静岡県は「下田市と浜松市で妊産婦の健診・出産のための通院、近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成する事業を実施」
▼愛知県は「一部の地域で通院や近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成」
近畿
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼滋賀県は19ある市町村のうち9。
10年前と比べて2か所拡大。
▼京都府は26ある市町村のうち11。
2017年度と比べて変化なし。
▼大阪府は43ある市町村のうち12。
2017年と比べて3か所拡大。
▼兵庫県は41ある市町村のうち19。
10年前と比べて3か所拡大。
▼奈良県は39ある市町村のうち26。
10年前と比べて変化なし。
▼和歌山県は30ある市町村のうち22。
10年前と比べて3か所拡大。
《支援》
▼京都府は「京丹後市でハイリスク妊婦に限り、通院や近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成する事業を実施予定」
▼大阪府は「府内では、医療機関までのアクセスに相当な時間を要する地域はないと考えるが、妊産婦の負担軽減を目的に、タクシーやバスなどの交通費を助成している市町村がある」
▼兵庫県は「神戸市、猪名川町、稲美町、播磨町、たつの市、丹波市、養父市でタクシー費用の助成や利用券を交付」
「淡路市で妊婦健診や出産時の健診の交通費を助成」
「相生市で自宅からオンラインで産婦人科医や小児科医等に相談ができる体制を整備」
「洲本市、朝来市、姫路市、神河町で交通費の一部を支援」
「福崎町で事前登録をして、急な陣痛や破水など体調不良時、通院や送迎にタクシーが利用できる制度を実施」
▼和歌山県は「和歌山市と海南市以外の全市町村で妊産婦の健診や出産に伴い必要となる交通費や宿泊費を補助。※市町村ごとに基準あり」
中国・四国
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼鳥取県は19ある市町村のうち16。
2013年と比べて変化なし。
▼島根県は19ある市町村のうち11。
2016年と比べて3か所拡大。
▼岡山県は27ある市町村のうち17。
10年前と比べて2か所拡大。
▼広島県は23ある市町村のうち12。
10年前と比べて1か所拡大。
▼山口県は19ある市町村のうち8。
10年前と比べて変化なし。
▼徳島県は24ある市町村のうち16。
10年前と比べて1か所拡大。
▼香川県は17ある市町村のうち9。
10年前と比べて1か所拡大。
▼愛媛県は20ある市町村のうち12。
10年前と比べて3か所拡大。
▼高知県は34ある市町村のうち29。
10年前と比べて1か所拡大。
《支援》
▼鳥取県は「通院や近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成する事業を実施予定」
▼島根県は「奥出雲町、美郷町、津和野町、吉賀町、海士町、西ノ島町、知夫村、隠岐の島町で実施しているが、制度の詳細は把握していない」
▼岡山県は「笠岡市、高梁市、浅口市、里庄町、矢掛町で事前登録制で、出産時に移動の支援が必要となった妊婦を救急車で搬送を行う取り組み」
「玉野市、笠岡市、瀬戸内市、和気町、早島町、里庄町、矢掛町、美咲町で交通費助成」
「高梁市で宿泊費助成を実施」
▼山口県は「通院や近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成する事業を実施予定」
▼徳島県は「阿南市や牟岐町で離島妊婦の健診や出産のための通院や入退院の際の交通費を補助」
「海陽町で健診や出産のための通院や入退院の際の交通費、宿泊にかかる費用を支援」
▼香川県は「丸亀市や観音寺市で、離島地域に住む妊婦に対し、通院などの交通費を補助」
「直島町で健診の交通費を助成」
「土庄町、小豆島町でセミオープンシステムを導入。島外で出産する妊産婦に、健診と事前滞在にかかる交通費や宿泊費などを支援」
▼愛媛県は「県・市町連携事業として、市町が実情に応じて支援内容を選択する『えひめ人口減少対策総合交付金』を創設。出産、子育て世帯の経済的負担の軽減をはかるため、妊産婦の健診などの交通費などを助成」
▼高知県は「室戸市、東洋町、馬路村、仁淀川町、大月町で通院や近隣の宿泊施設に待機宿泊する際の費用を助成。また、自宅分べんや車中分べんなどが起きる可能性を考慮し、救急隊員の対応力の強化のため、県内で研修を受けられるようにしている」
九州
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
▼福岡県は60ある市町村のうち29。
2018年と比べて変化なし。
▼佐賀県は20ある市町村のうち10。
10年前と比べて1か所拡大。
▼長崎県は21ある市町村のうち8。
2010年と比べて3か所拡大。
▼熊本県は45ある市町村のうち32。
10年前と比べて2か所拡大。
▼大分県は18ある市町村のうち8。
10年前と比べて1か所拡大。
▼宮崎県は26ある市町村のうち19。
10年前と比べて変化なし。
▼鹿児島県は43ある市町村のうち27。
10年前と比べて2か所拡大。
《支援》
▼福岡県は「福岡市、宗像市、新宮町で離島に住む妊婦への出産時の交通費や宿泊費等を補助」
▼佐賀県は「令和7年度から、ハイリスク妊婦で周産期母子医療センターまで60分以上かかる妊婦に対して、交通費及び宿泊費を助成する事業を導入予定」
▼長崎県は「小値賀町で出産に備えて待機する場合の宿泊費や通院の交通費を支援。平戸市、松浦市、西海市、雲仙市、長与町、東彼杵町、波佐見町でも支援を実施」※詳しくはHPを参照。
▼熊本県は「五木村で妊婦健診の交通費を助成。水上村で高度医療が必要な妊産婦に対して、妊産婦健診や出産のときの交通費を助成」
「天草市と上天草市で離島地域に住む妊婦の健診や出産のための入院、乳幼児健診の際に負担する交通費を助成」
▼大分県は「一部の地域で健診や出産時の交通費などを支援。令和5年は臼杵市、津久見市、竹田市、豊後大野市、国東市、姫島村で実施。令和6年は別府市、中津市、佐伯市、宇佐市、由布市でも実施予定」
▼宮崎県は「小林市、えびの市、高原町で事前登録制で緊急時の救急搬送制度を実施」
「延岡市で島浦町に住む妊婦が町外の病院や診療所に通院や入院をする場合の交通費を助成」
「串間市で妊産婦健診に関わる費用を助成」
「西米良村、諸塚村、日之影町、五ヶ瀬町で通院の交通費を支援」
▼鹿児島県は「離島地域の妊婦が遠方の医療機関を利用せざるを得ない場合に、通院や滞在にかかる経費を補助」
沖縄
地図のオレンジ色の部分が “分べん空白市町村”
《空白市町村》
沖縄県は41ある市町村のうち25。
10年前と比べて1か所縮小しました。
《支援》
「離島地域の妊婦が島外の医療機関を利用する場合の、通院や宿泊にかかる費用を補助」
国も妊婦支援を強化
国も支援の強化を始めています。
こども家庭庁は、出産施設までのアクセスに課題がある妊婦を対象に、出産時のホテルの宿泊費や交通費を補助する支援を行っているほか、ことし4月からは、遠方の出産施設に妊婦健診に通院する際の交通費も補助するとしています。
自宅や里帰り先の家から、医療機関に移動するのに、おおむね60分以上かかる場合で、最大14回を上限に実費の8割が補助されます。
なぜ“分べん空白市町村”広がる?
なぜ、分べん空白市町村が広がるのか。
日本産婦人科医会の調査によると、出産施設は約20年前と比べて1000件あまり減少。これまで、地域で比較的リスクの低い妊婦のお産を担っていた病院やクリニックが、医師の高齢化や少子化による減収で、経営を維持できなくなっているのです。
(日本産婦人科医会の施設情報調査より 全施設:2006年は5946施設→2023年は4859施設)
日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長は、このまま出産施設が減り空白市町村が広がることで、安全に影響しないか、懸念していると言います。
日本産婦人科医会 前田津紀夫副会長
「妊婦が安心してお産に臨めるよう、せめて妊婦健診は地元で受けられるようにするなどの対策が急務だ。全国的にお産に関わる医師が不足しているため、一定の集約化はやむを得ない部分がある。ただ集約化にも限度がある。これまで国内では、世界でもトップクラスの安全な周産期医療を提供してきたが、このまま空白市町村が広がれば、日本のお産の安全性が揺らぎかねない」
さらに、前田副会長は安全性を維持していくためにも、いまある出産施設を減らさないよう、財政面で支えていくことも重要だと指摘しています。
現在、国で検討されている「出産費用の保険適用」について、施設の運営が維持できるような、診療報酬のあり方を議論していくべきだとしています。
全国的に出産施設が減り、分べん空白市町村が広がっていることについて厚生労働省は「出産施設は減少しているが、各都道府県で、二次医療圏よりも広い、周産期に対応する医療圏を設定し、出産施設を確保しているところだ。現状では、自宅から医療機関までに比較的距離のあるケースも考えられる。地域の実情を踏まえて、妊婦の情報をあらかじめ地域の消防機関と情報共有するなど、対策を講じてもらうことが望ましい。今年度からこども家庭庁と連携して実施している出産前の宿泊費用の支援事業も活用してほしい」とコメントしています。
また、施設が減少している理由のひとつ、医師不足の解消については、
「少ない医師で体制を維持しながら地域医療に貢献してもらっている施設には感謝したい。ただ、1人の医師が常にオンコール状態となっているケースは望ましい状況ではないと考える。都道府県は地域の実情に応じて計画を策定の上、医師の確保に取り組んでいただくことが重要だ。現在、医師の偏在の是正のため、経済的インセンティブや規制的手法等を組み合わせた総合的な対策のパッケージを検討しているところだ」とコメントしています。
妊婦と赤ちゃんを守っていくために
NHKでは「お産の危機」と題して、国内の周産期医療について今後も取材を続けます。
出産施設が減り続けるなか、みなさんと一緒に、今後の日本のお産のあり方を考えていきたいと思っています。
出産に関する経験談や困り事、お産を支える医療関係者の声を募集しています。
このほか、「住んでいる県では無痛分べんができなかった」、「費用が高くて無痛分べんを諦めた」など、「無痛分べん」に関する体験談や困りごとも募集しています。
※この記事は、2024年11月6日に公開しましたが、データの一部を修正して、2025年2月26日に改めて公開しました。
(2月26日 クローズアップ現代で放送予定)
引用元:
広がる“分べん空白市町村”(NHK)