京都市南区の産婦人科病院「第二足立病院」で、経済的に困窮する妊婦の出産費用をNPO法人が全額負担する「無料産院」の取り組みが始まって1年半が経った。背景には、妊娠がわかっても公的支援を受けられず、孤立する女性たちの存在がある。

 おなかが痛いけれど、所持金も、母子手帳もない。どうしたらいいですか――。

 第二足立病院には、おなかが大きくなった女性が突然訪ねてくることがある。妊娠をきっかけに仕事や学校に行けなくなった人、家族との関係性やDVに悩んでいて誰にも相談できなかった人、性暴力の被害にあった人……。駆け込む女性たちの状況は厳しく、複雑なことが多い。

 無料産院は2023年6月、妊婦健診をほとんど受けずに出産に至る「未受診妊婦」への支援策として、認定NPO法人フローレンス(本部・東京)が第二足立病院と提携して開始した。同法人が健診と出産の費用を肩代わりする仕組みで、寄付金が原資。現在、提携病院は京都、岐阜、東京に四つある。

 支援対象は妊娠中期以降の妊婦で、収入や生活状況をふまえて総合的に判断する。

 支援を必要とする妊婦を「特定妊婦」として自治体がサポートする公的な仕組みはある。ただ、支援を受けるには病院の受診や役所への「妊娠届」の提出が必要だ。

 病院受診の費用は、初診で1万円前後。お金や保険証がなく、受診をためらう妊婦は少なくない。前年度に一定の収入があると、困窮していても公的支援の対象にならない場合もある。

 無料産院事業を担当するフローレンスの石原綾乃さんは、こうした「非特定妊婦」への支援を広げることが、孤立出産による赤ちゃんの遺棄や虐待死をなくすことにつながると考えている。「まずは受診のハードルを下げたい」と話す。

 これまで第二足立病院で無料産院を利用した人はおよそ10人。メールでの相談や行政からの情報提供を受け、条件に当てはまれば無料産院を紹介し、「お金の心配はいらない。とにかく受診しよう」と促してきた。

 一方、同病院の師長永井利枝さんは「未受診の妊婦が抱える困難は、経済的な問題だけではない。無料産院を紹介しても受診をためらう人は少なくない」と話す。家族や周囲の人に妊娠を知られたくないという理由から病院に足を運べない人は少なくない。一度受診しても、それ以降連絡が途絶える人もいる。

 同病院で無料産院を利用した人の中には、日本に滞在する外国籍の女性もいた。

 就労ビザで日本に住む女性は、SNSで知り合った日本人の交際相手のもとで暮らしていた。しかし、妊娠がわかると相手に家から出て行くよう言われたという。女性は収入の多くを母国に仕送りしていたため所持金はほとんどなかった。行き場を失ったところを支援団体に保護され、無料産院にたどり着いたという。

 技能実習生や留学生が妊娠によって追い詰められるケースもある。永井さんは「言語の壁もあり、孤立しやすい。公的支援はもちろん、民間の支援にたどり着くことさえ難しい。無料産院でお産を支援できたとしても、出産後も困難は続くので心配」と話す。

 永井さんは、受診をためらうのは、複雑な事情があるのに「なんで受診しないんだ」と責められることが背景の一つにあると考える。「未受診妊婦の問題や孤立出産による赤ちゃんの遺棄は、女性だけの責任ではなく綿々と続く社会の問題。公的な支援の対象をもっと広げていかなければ」と訴える。

引用元:
「無料産院」京都で始まって1年半 公的支援受けられず孤立する妊婦(朝日新聞デジタル)