ヒトの生殖は効率がとても悪い。マウスなど他の動物では受精卵の多くがより複雑な胚に成長を続けるのに,ヒトの受精卵は早い段階でダメになることが多い。最近の Genome Medicine誌に報告されたある研究は,体外受精(IVF)で得られた1000個近い受精卵を解析し,その理由を探った。
染色体異常のヒト胚(染色体の数が通常の46本より多いか少ない細胞)は子宮に着床しない場合が多いことが知られている。着床しても,流産や死産に終わるだろう。こうした異常の一部は卵子や精子に起因するものだが,健全な卵子と精子から異常な細胞分裂をする胚ができる場合もある。1個の細胞が2個ではなく3個に分裂するといった異常だ。「ヒト受精卵が最初の細胞分裂時にエラーをよく起こすことを示した研究は多い」とベルギーのブリュッセル自由大学で生殖と遺伝に関連する問題を研究しているスピッツ(Claudia Spits)はいう。
今回の研究論文の著者たちは,こうした分裂異常が新たな染色体異常を引き起こし,卵子や精子そのものに起因する染色体異常よりも胚の発生を大きく害している可能性を発見した。この新たなエラーは「壊滅的」になりうると,論文の筆頭著者となったジョンズ・ホプキンズ大学の進化生物学者マッコイ(Rajiv McCoy)はいう。「染色体が3本,4本,あるいは5本欠損することがよく起こる」。
マッコイらは顕微鏡と微速度撮影を使って体外受精胚の初回の細胞分裂を録画した。そして生き残った胚と死滅した胚の両方について染色体異常を調べた。受精後に生じる染色体異常の影響は「誰もがみな想定はしていたが」,廃棄胚を含む多数の胚を調べる「今回のような方法で裏づけられたのは初めてだ」とスピッツは評する。
卵子提供者が若くても分裂エラー
今回の研究はまた,一般に卵子と精子の異常が加齢とともに増えるのに対し,受精卵の細胞分裂関連エラーは卵子を提供した女性の年齢によらず,すべての受精卵で等しく生じていることを見いだした。若く健康な夫婦でも妊娠が困難な例が多い理由をこの発見で説明できる可能性があると研究チームは考えている。
引用元:
卵子や精子そのものの異常よりも,受精後に初めて分裂する際のエラーが大きな障害に(日経サイエンス)