哺乳類の卵子で頻発する染色体の分配エラー
染色体の動きを鮮明に捉える動画技術を手に
「完璧ではない生命」の実像に迫る
卵子は次世代に命をつないでいくための特別な細胞だ。ところが卵子ができる過程である細胞分裂では染色体がうまく分配されないエラーが頻繁に起きる。最もエラーを避けたいはずの卵子でなぜこんなことが起きてしまうのか。理化学研究所生命機能科学研究センター副センター長の北島智也はその謎を解こうとしている。 (文中敬称略)
卵子や精子以外の細胞は両親から一組ずつ受け継いだ計2セットの染色体を持ち,これを2nと表現する。細胞分裂に先立ってDNAが複製され,一時的にすべての染色体が2本ずつ,つまり4nになる。細胞分裂が始まると,複製で2本になった染色体は1本ずつ新たに生じる2つの細胞に分配されて2nに戻る。
一方,卵子と精子は,他の細胞とは異なり,減数分裂という特殊な分裂をする。ここでは2nからDNA複製を経て4nになり,2回の分裂で2n,nとなっていく。卵子での染色体の分配エラーが特に生じやすいのは1回目の分裂で,北島によるとその頻度は「研究によって幅はあるがヒトでは10〜30%になる」という。
染色体の分配がうまくいかなかった卵子はどうなるのか。1本の染色体に乗っている遺伝子の数は数百から数千。これだけ多くの遺伝子に欠損・重複があればその影響は甚大だ。「卵子は身体のすべてのスタートになる細胞。その卵子に染色体数の異常があれば,子の全身が影響を受ける」と北島。
実際,染色体数に過不足のある卵子のほとんどは受精しても発生がうまくいかず,着床できなかったり,着床しても流産したりしてしまう。染色体の分配がうまくいかなかった例として,21番染色体が1本多いダウン症がよく知られている。出産に至る例もあるが,やはり自然に流産してしまうケースが多い。染色体の分配エラーは卵子以外での細胞でも起こりうるが,その頻度は卵子ほど高くはない。何が卵子のエラー率を高くしているのだろう。
引用元:
生命の不完全さの始まり 卵子染色体の動きに映す(日本経済新聞)