約5年前の夏。深川市のタクシー運転手菊入孝志さん(75)は、時折苦しそうな表情を浮かべる大きなおなかの女性を乗せ、真っ暗な国道を走っていた。


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 「生まれそう」。隣接する沼田町から真夜中に配車依頼の電話が来た。女性の夫は運転免許を持っていなかった。車で約20分の深川市立病院は 分娩ぶんべん ができない。約1時間かけて女性を砂川市の病院へ送り届けた菊入さんは、「急ぎの時も遠くの病院に行く必要がある。この地域のお母さんは大変だ」と思った。

 深川市立病院は2015年に分娩をやめた。周辺では砂川市と旭川市が分娩機能を持つが、いずれも車で約1時間かかることもある。長女の出産を3月に控える深川市の銅一美さん(32)は「雪が残るうちは事故や渋滞に巻き込まれる不安もある」と打ち明ける。市にも同様の相談が寄せられている。

広がる「子どもを産めない地域」

 少子化で分娩機能の集約が進み、「子どもを産めない地域」が広がっている。厚生労働省によると、産婦人科がある道内の一般病院は25年あまりで4割減となった。道の統計では、分娩できる病院や診療所がある自治体は179市町村で27市町しかない。

 道幹部は「出生数が減少し、コスト面で産科を維持できない地域もある」と実情を語る。分娩ができる71施設の半数近くは札幌市と旭川市に集中。04年に国の新医師臨床研修制度が始まり、研修先を選べるようになった医師が、学べる症例が多い都市部に集まった。

 札幌医大の斎藤豪・医学部長は1996年から1年間、道立江差病院(江差町)で産科医として勤務した。約300人の出産に携わり、町外に一歩も出られなかった。「『とにかく1人で頑張れ』という時代だったが、今は医師の働き方も多様。無理に地方で働いてもらうことは難しい」と語る。

 道内では、複数の産科医がいて高リスクの出産にも対応できる拠点病院が設置されている。それでも、斎藤医学部長は「地方を支える意欲が高い産科医の数を増やすことも大事。カリキュラムの工夫など、次世代の関心を高める取り組みを地道に進めるしかない」とする。

官民連携で「産んで育てる」環境を

 出産できる病院と併せて不可欠なのが、産前産後の悩みに寄り添う助産院だ。上士幌町では2021年、助産師の渡辺雅美さん(43)が「マミー助産院」を開業した。赤ちゃんの体重や母乳の相談に乗り、食事や抱っこの仕方などを助言する。

 同様の施設は、十勝地方では帯広市とその近隣に数か所あるのみとされる。昨年、長女を出産した町内の伊藤奈保子さん(38)は「ネットの情報に頼らざるを得ないと思っていた。LINEで気軽に相談でき、不安解消につながっている」と笑顔だ。

 上士幌町など十勝地方の3町は渡辺さんに業務委託し、町の補助で母親がケアを受けられる仕組みができている。一方、渡辺さんは母子保健相談や妊婦健診の業務と連動し、助産院が事前に母親とコミュニケーションを深めるといった協力も重要と考える。

 のびのびと子育てができる場所を求め、自然豊かな道内に本州から家族で移住した渡辺さん。「人口減少が進む道内だからこそ、各地で『産んで育てる』環境を維持するため、官民が手を取り合った体制づくりが必要だ」と実感している。

出産の不安解消へ 各地で取り組み
 出産に対する不安を解消する取り組みが各地で進んでいる。

 深川市は地元のタクシー会社「音江ハイヤー」と協定を結び、事前登録した妊婦を病院へ運ぶ「安心ハイヤー」を実施している。移動中の破水に備えて、車内にバスタオルや防水シートも用意。陣痛が始まった妊婦が乗車したこともあり、木村知加社長は「安心してもらえるように声かけをしながら、病院まで確実に送り届けたい」と話す。

 札幌市東区の天使病院は、遠方の妊婦が出産予定日より前から寝泊まりできるワンルームの滞在施設を敷地内で3月から運用する予定だ。これまでも市内のマンションを借りて同様の取り組みを行ってきた。道内各地の自治体から通院する妊婦が、長距離移動に不安を感じて利用するケースが目立ち、担当者は「病院のそばにある滞在施設で安心してお産に備えてもらいたい」とする。

 小樽協会病院も遠方の妊婦のオンライン健診に力を入れる。

 道と市町村は2016年度から妊婦の通院に伴う交通費を補助しており、22年度は1937人が利用した。離島に住む妊婦には宿泊費の補助も行っている。

引用元:
分娩可能な病院や診療所がある自治体は27市町のみ 北海道で増える「お産できない町」(讀賣新聞)