京都市の保育園が臨床心理士を雇用し、発達障害やその傾向がある「グレーゾーン」の子どもたちを支援しようと取り組んでいる。常勤で心理の専門家がいる園は全国でも珍しく、一人一人の特性に合った保育で「子どもの生きづらさ」を解消しようとする取り組みとして注目が集まっている。【千金良航太郎】

 京都市中京区の認可保育所「中京みぎわ園」。2023年11月下旬、保育士が子どもたちと一緒に遊ぶ中、臨床心理士の藤原朝洋さん(42)は、少し離れた場所でしきりにメモを取っていた。「自由遊びでは他児から離れた場所で遊ぶ」「音には反応するが、言葉の意味を理解している様子は確認できない」―。ノートにはそんな言葉が並

 これは、子どもが集団の中で他人とどう関わるか、どんなタイミングで状況に適応できない行動を起こすのか観察する「アセスメント」の一環だ。この日は、言葉の理解や他人への興味の点で発達に遅れがみられる3歳児について、保育士からの相談を受け、観察に入った。

 第三者として観察するだけでない。「あれ見て!」とおもちゃを指さして呼びかけたり、手を出して「タッチ」を求めてみたりもする。すると、以前は興味を示さなかった子どもが、この日は目を合わせて「タッチ」に応じ、笑顔を見せた。以前よりも成長した証拠だ。




 担当の保育士には「他人に興味を持つような関わりをする」「伝え方を工夫する」といった保育の方法を提案。藤原さんは「子どもは関わるほど変化する。障害の有無に関わらず、子どもの特性に合った保育で成長の機会を守ってあげたい」と語る。

 園を運営する社会福祉法人「美樹和会」(伏見区)は府内に7カ所の保育施設を有し、計83人の保育士のほか、臨床心理士4人、作業療法士、言語聴覚士らが各施設を回り、発達支援に力を注いでいる。同会顧問の塩谷索さん(43)は「専門家が常勤することで、より子ども一人一人に合わせた関わり方ができる」とその意義を語る。



小中学生8.8%に発達障害の可能性

 保育現場における発達障害児支援は喫緊の課題だ。文部科学省の22年の調査によると、通常学級に通う公立小中学生の8・8%に発達障害の可能性があることが分かっており、塩谷さんも「あくまで体感」と前置きした上で、10人に1人程度の子どもに何らかの発達上の課題があると感じるという。
こうした子どもたちは他の園児とうまく関わることができず、孤立してしまうことがある。他人との関わり方が分からないまま成長すると、周囲になじめないストレスからうつ病などを発症する「2次障害」につながる恐れもあるというこうした事態を避けるためには、幼児期の早い段階から子どもの心に精通する心理士などが関わり、子どもの長所を伸ばす保育が重要になる。

 保育での心理の専門家の重要性についてはこれまでも指摘されており、京都市も公益社団法人に委託する形で各保育園に臨床心理士などを派遣する「巡回相談」を実施するなど力を入れている。ただ対象は認可保育所のみで、人手の問題もあり一人の園児を継続的に支えるのは難しいのが現実だ。

 そのため同会は19年に初めて臨床心理士を常勤で雇用。支援が必要な園児ごとに「個別支援計画」を作成し特性に合わせた保育を目指すほか、保育士や作業療法士らと意見を交わす「支援会議」で連係を深めるなど、独自の取り組みを進めてきた。

 23年11月にはこれまでの園の取り組みをまとめた書籍「保育園に心理士がやってきた」(クリエイツかもがわ)を出版。「社会全体に取り組みが広まってほしい」との願いからだ。塩谷さんは「子どもたちの『生きづらさ』と親御さんの『育てづらさ』。両方を保育を通して解消してあげたい」と願っている。


引用元:
子どもの「生きづらさ」解消を 京都の保育園に常勤の臨床心理士