能登半島地震の被災地ではインフラの損壊や医療従事者の被災により、病院で妊婦の受け入れが困難な状況が続いている。分娩可能な施設も物資や人手の不足が深刻だ。専門家は妊婦は血栓症などのリスクが高いとして、少しの変化でも周囲にSOSを出すことの重要性を強調する。
「赤ちゃんを守らないと」。1日午後、鳴り響いた緊急地震速報を聞き、恵寿総合病院(石川県七尾市)の新井隆成医師は近くにいた助産師と新生児室へ急いだ。双子の赤ちゃんが眠るベッドに手をかけた瞬間、立っていられないほどの揺れが襲った。
七尾市では震度6強を観測。恵寿総合病院の産婦人科には当時、新生児を含めた6人が入院していた。
珠洲市や輪島市など能登半島北部はもともと産科医や助産師が少ないうえ、今回の地震でほとんどの病院が対応できない状況になっているという。同病院は10日までに、他の病院で分娩予定だった妊婦3人を新たに受け入れた。
同病院は地下水を濾過(ろか)するシステムなどのおかげでインフラはかろうじて維持できているが、医師や助産師らの疲労は蓄積。他病院からの応援などを得て、1日以降に3人の出産につなげた。
新井医師は「直接支援を要請して民間のボランティアや遠方の病院から医師たちが来てくれたおかげでなんとかやっているが、このままではもたない」と話す。被災した当事者だけで医療を維持するには限界があり、行政や医師会などが連携した人的支援が急務だ。
石川県によると、珠洲市や輪島市など能登半島北部には1月に出産予定の妊婦が十数人いたが、9日までに分娩予定の施設に搬送を終えた。この地域に妊婦は200人前後いると推測されるが、詳しい状況は把握はできていないという。
こども家庭庁は被災した妊婦や乳幼児が避難先の自治体でも健診を受けられるよう、全国の自治体に配慮を求めた。受診券を持たずに避難する人も多く、柔軟な対応を促す。
産婦人科医で母子避難に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の吉田穂波教授は「妊婦は配慮が必要な人の中でも少数派で、見過ごされやすい」と指摘する。
妊婦は血栓症になりやすいとされ、こまめな水分補給が欠かせない。「食事や睡眠をしっかり取り、ちょっとした健康状態の変化でも周囲に助けを求めてほしい」と話す。
吉田教授が監修し、インターネット上で公表しているマニュアル「あかちゃんとママを守る防災ノート」では非常時に備えた対応や健康のセルフチェックも参照できる。「健康情報や緊急連絡先などは母子手帳やスマホだけでなく、バックアップをとっておくとよい」と呼びかけた。
乳幼児ケア、代替品活用
災害時の乳幼児ケアは、子ども用品を普段使わないもので代用するなどの工夫が求められる。精神的に不安定になる子どもも多く、安心感を得られるようにする必要がある。
厚生労働省が災害時向けに作成した「避難所等で生活している妊産婦、乳幼児の支援のポイント」などによると、哺乳瓶の洗浄・消毒が難しい場合は清潔な紙コップを使ってミルクを与えることができる。
おむつが足りない場合は、ポリ袋にタオルを重ねて腰に巻き付けると代用できる。乳児のお尻はかぶれやすいため、短時間おむつを外して乾燥させたり、お尻だけはお湯で洗ったりすることも有効だ。
災害のストレスや避難所の集団生活など慣れない状況が続くと、子どもは「赤ちゃん返り」や乱暴になるなどの行動が表れることがある。保護者は正常な反応ととらえ、気持ちを受け止めることが大切という。
引用元:
妊婦・赤ちゃんに支援を 産科の窮状深刻、能登半島地震(日本経済新聞)