子どもを望んでも恵まれない女性にとって、選択肢の一つになるのが不妊治療です。2022年から体外受精が保険適用となり、若い世代にも認知が広がっています。一方で、すでに子どもを産んでいる女性が「2人目不妊」などで通院する場合、子どもを連れて行っていいのかどうか、たびたび議論になっています。クリニックの待合室は「子どもNG」が通例で、子どもを預ける場所がないとの声もあります。互いに嫌な気持ちにならないために、解決策はないのでしょうか。杉山産婦人科グループの杉山力一理事長に聞きました。

子連れ受診は是か非か 「お互い思いやりが必要」の声も…

この問題が注目されたのは昨年12月でした。不妊治療中の女性が、病院のフロアに子連れの女性がいたことへの違和感をネット上で告白し、大きな議論になりました。別の投稿者が「治療中の私に配慮して」はいきすぎた風潮だと批判的に意見したところ、不妊治療経験者から「ホントに無理」との声が相次ぎ、投稿は非公開になりました。一方で、「気持ちは分かるけど相手にだって事情がある」「お互い思いやりが必要」と難しい状況を理解しつつも、中立的な見方が必要との声もありました。

 第1子を不妊治療で授かった30代女性は、「子連れはなしかな…。難しいとは思いますけど、託児のついているクリニックに行くしかないと思います」と語ります。

 その理由について聞くと、「つらいじゃないですか。1人目が順調で2人目が不妊の人は気づかないかもしれないけど、1人も授からないかもしれないという不安がある。常に崖っぷちな気持ちでクリニックに行っている。(子連れがいたら)やっぱり、ねたましい気持ちになっちゃうと思います。1人も子どもを持てない人にとっては、余計苦しくなっちゃうし、みじめな気持ちになっちゃう。もちろん、子どもに罪はないし、子どもはかわいいけど、それとは別。頭で理解していても気持ちは別だと思います」と説明しました。

実際、子連れでなかったとしても、女性はふとした言葉が気になったそうです。

「待合室で、『1人目のお迎えがあるから、診察の時間を変えてほしい』と大きな声で話している人がいて、聞いている人はどう思うかと不安になりました。もうちょっと言い回しがあるんじゃないかと思いました。お金も時間もかけてそれでもうまくいくか分からないまま診察を待っている人しかいないですから」

 病院側はこの問題についてどのように判断しているのでしょうか。

 杉山産婦人科新宿では、子どもを連れての待合室での待機や診察室への受診は「基本的にはご遠慮いただければ」という方針です。杉山理事長は、子どもが静かに待てないこと、受診する母親が子どもの対応に追われてしまうこと、他の患者への精神的影響の3点を理由に挙げました。

「病院ですから1時間待ち、2時間待ちになるときがあるんですよね。子どもを連れてきて、静かにしようと思っても無理だと思います。騒いだり走ったりしちゃうんですよ」。その結果、母親が子どもの世話に追われてしまいます。「例えばお母さんが一緒に外にあやしに出ちゃうと、今度は診察の順番のときにお母さんがいないという現象が起こります」。次の患者が待機している中で、混乱をきたしてしまいます。
そして、子どもの存在が他の患者に心理的な影響を与えるという問題です。

 これについては、「(子どもを見て)励みになる人もいるかもしれないし、『あ、かわいい』と思うかもしれないし、私はできないからあの子かわいくないと思うかもしれない」と、受け止めに個人差があることを指摘。「その是非を他人が決める必要はないと思います」との見方を示しました。一方で、病院側としては、子どもを受け入れることができない人に寄り添うことを優先させると言います。「(子連れ受診は)通常の不妊クリニックは絶対NGですね。基本的に『それは嫌だ』という人の声を重視するからです。規模が大きいクリニックだと、子連れの人はこのフロアで診察しますというクリニックもありますが、それもごくまれです」と杉山理事長は語りました。

解決策は託児所の併設も… 「都内では難しい」理由

子連れによる不妊治療はハードルが高い印象です。ただ、これらの問題を解決する方法がないわけではありません。杉山産婦人科新宿では託児所を併設し、待合室とフロアを分けて運営しています。

「子どもがいることが理由で第2子を作れない人がいっぱいいますから。子どもを病院に連れてこれないから受診できない人がいるんですよ」

 新宿では1日300人超の患者が訪れます。そのうち、第2子以降の子どもを望む母親は「3〜4割くらい」とかなりの割合を占めています。

 ただし、託児所は、どの不妊治療クリニックにも存在するものではありません。

「理想は託児所があったほうがいいですよ。でも、都内はついているところを探すほうが難しいんじゃないですか」

 どういうことでしょうか。

 杉山理事長によると、場所の確保に加え、運営の問題があるとのことです。家賃だけで月数十万円、さらに、保育士を雇う必要があります。子どもが遊んでいても体調の変化を含め、常に目を配らせなければなりません。杉山産婦人科新宿の託児所利用料は、時間にかかわらず1回1000円(税別)ですが、それだけではとてもまかないきれないのが現状です。

「かなえられないんですよ」 「子どもNG」がクリニックの共通認識

 託児所のほかには、前述のように診察フロアを分けたり、子連れかそうでないかによって診療時間を分けるという方法もあります。また、患者側は子どもを一時保育に預けたり、ベビーシッターを利用するという方法もあるでしょう。

 ただ、前者は都内ではスペースの問題があり、後者は時間的な制約があります。不妊治療は、治療の種類によって、通院日が突発的に決まることがあります。また、体外受精では採卵のため早朝に通院することも珍しくありません。子どもを預けたくても、保育施設が開いていないこともあるでしょう。都度、預け先を見つけることは親側にとって大きな負担になります。潜在的な受診ニーズがある一方で、通院の条件を満たすクリニックが少ないため、第2子以降を希望しても受診を控えている母親が相当数いる実態が浮かびます。

 杉山理事長は、取材中、「これは難しい」という言葉をたびたび使いました。
「アンタッチャブルな部分ですね。課題になってない。かなえられないんですよ。もう物理的に場所もない、人材もいない、さらにお金もかかる。僕の知っている中では子どもOKなクリニックはないですね。それが普通なんですよ。だから課題になっていないです」

 杉山産婦人科新宿の託児所の利用率は1日20組ほど。1度に預かれる人数は決まっており、「なるべく受けてと話しているんですけど、満員で断っている日があるかもしれない」と杉山理事長は明かします。都内では院内に併設しなくても、近隣の託児所や病院と連携して託児サービスを取り入れているクリニックもあります。いずれにしても、第2子以降を望むのであれば、年齢や時間との闘いもあり、切実な課題です。

「いい方策があれば、不妊治療やる人は今よりは増えるかもしれないですね。子どもを預けられないから(治療を)やっていない人って少なくないと思いますよ」と杉山理事長は結びました。

引用元:
不妊治療の子連れ受診、「ホントに無理」との声が続出 難しい解決策 医師「アンタッチャブルな部分」(Hint-Pot)