早産児という存在を知っているだろうか。妊娠期間が6〜9カ月(37週未満)で生まれた子を言い、出生体重が2500グラムに満たないことが多い。生後すぐに新生児集中治療室(NICU)に入る場合もあり、退院後も家族はさまざまな悩みや不安、心配を抱えながらの育児をしなくてはならない。社会全体で支えるためには何を知り、どうしたらいいか。啓発イベントを訪ねた。
◇生まれてすぐ集中治療室に
厚生労働省の人口動態調査によると、1年間の出生数に対する早産児の割合は近年、5.7%前後で推移している。2500グラム未満の低体重で生まれた子は9.4%ほど。新生児20人中1人が早産児、10人中1人が低体重児になる。36週以下の段階だと、体の各器官が成熟し切っていない可能性が高く、低体重・低身長で生まれる確率が上がる。
このような早産児や低体重児が生まれた場合、特別な新生児ケアとしてNICUに入ることも多く、24時間体制で心拍数や血圧、血液中の酸素濃度などのチェックを受ける。呼吸障害や感染症などを発症することもあり、合併症のリスクが高いことも一因だ。
◇医療の現場では
新生児医療の進歩で無事に退院・成長していくようになったものの、課題がなくなったわけではない。慶応義塾大学医学部小児科の有光威志医師は「体重増加不良などの健康問題や、発達がゆっくりであるなど、将来的に何らかの課題を抱える可能性が正期産児より高い。赤ちゃんに何気なく施している検査や処置などがストレスになり、それらの原因になっている可能性がある」と指摘する。そのため、有光医師らは赤ちゃんのストレスと痛みを軽減し、家族が安心して赤ちゃんと関わることができる医療ケアを実践している。
回数を減らす、短時間で行う、優しく触れるなど最低限の治療行為にとどめることで、ストレスや合併症の抑制・軽減、発育や発達の促進といった効果があるという。採血などで生じる痛みもなるべく減らす。「痛みを感じる回数が多いと脳の構造が変化し、将来の発達スコアが下がるという報告もある」(有光医師)。
家族の心のケアとして有効な方法の一つは、家族も治療の一端を担うことだ。有光医師は「赤ちゃんとの時間を長く過ごせるようにしている。(直接胸に抱く)カンガルーケアもその一つ」と優しく語る。その中でも特に、赤ちゃんにたくさん話し掛けてあげることがとても大切だ。有光医師は「家族の声が聞こえると、赤ちゃんの脳内ネットワークのうち、愛着や感情をつかさどる箇所が活性化する」と説明。家族とのコミュニケーションは、親の不安を和らげ、赤ちゃんの家族に対する「大好き」「安心する」という気持ちを育む。
◇緊迫感の中で育児
「『この子の命を守らなくちゃいけない』と自分に言い聞かせながらの育児は緊迫していた。光が見えない暗闇の中で、ずっと不安を感じる日々だった」と心の内を語ったのは、854グラムの長男を予定日より約2カ月早く出産したゴーウィンかおりさん。
赤ちゃんの哺乳力は弱く、NICUにいる時から哺乳瓶で飲む練習を重ねた。退院後も、弱い力でも飲める仕組みの哺乳瓶の飲み口を探したり、一度にたくさん飲めないため毎日数時間おきに少量ずつ授乳したりと、細かい配慮は続いた。
産休明けに備えて保育所を探したが、「経験が無い」などの理由で受け入れに消極的な園もあった。その後、訪問保育サービスの存在を知り、利用を始めたが、「行政はもっと情報を積極的に教えてほしいと感じた」。
周囲の人から掛けられた励ましの言葉は、素直に受け止める余裕がなかったという。「『頑張って!』と言われても、これ以上どう頑張ればいいのか。もう頑張れないと思ってしまった」とゴーウィンさん。「『かわいいね』と他の(普通の)子と同じように言葉を掛けてもらった時はとてもうれしかった」と、かみしめるように話した。
◇さまざまな支援
2018年に静岡県が全国で始めて配布したリトルベビーハンドブックは、身長、体重とも小さな数値から始まっており、低身長・低体重の子の発育について分かりやすく記録できる。従来の母子健康手帳だと、保護者は数値のほか月齢ごとの発達の様子などについて「書き込めない」と感じ、心理的負担になっていた。その問題を克服した形で、23年10月現在で40道府県と6市が運用している。
22年には、国の「低出生体重児の発育曲線」が見直され、医療機関や保健所などの検診時に、保護者が活用しやすい体裁になった。こども家庭庁のサイト内で公開されている。
成長過程において、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業で各都道府県などが、慢性的な疾病を抱える児童や家族のサポート体制を整えている。自宅訪問して相談に乗ったり、自立支援員が学校などとの間を仲介し適切な情報を提供したりするといった内容だが、「当事者にしっかり届いているとは言い難い」と有光医師は表情を曇らせる。
そんな中、力を発揮するのが患者家族会などピアサポートだ。同じ境遇で似た悩みや不安を抱えている当事者同士が、それらの課題だけでなく喜びや感動も共有し、寄り添う。お互いが支え合うことで、暗闇に光が差すことがあるという。有光医師も「日本NICU家族会機構(JOIN)」の活動に携わり、全国の家族会の情報や当事者の声などを届けている。
◇私たちができることは
啓発イベントでは、埼玉県の浦和実業学園中学校の生徒により、NICUでの小さい赤ちゃんのおむつ交換体験が行われた。保育器に手を入れ、看護師に手伝ってもらいながら、手のひらより小さいおむつを人形に履かせる。2年生の木村美咲さんは「思っていたよりずっと小さくて驚いた。誰もが安定して生まれてくるわけではないことが分かった」と話した。
ベビー用品のピジョン(東京都中央区)によるアンケートでは、早産児家族の9割以上が「不安や悩みがある」と答えた。一方、一般の人の7割弱が「早産児家族がどう悩んでいるか、どのような声掛けをすればいいか分からず戸惑う」と答えた。一般社団法人山王教育研究所の臨床心理士の橋本洋子さんは「子育て支援センターなどのスタッフは温かく迎えることが大事。研修などが必要だろう」と話す。
学校では教師はもちろん、保護者、そして子ども同士の理解が大切になってくる。「心配なことを相談できる場所が求められている」と橋本さん。「早産児・低体重児の家族に限ったことではないと思うが、子どもたちがここまで育ったこと、その子どもたちを育ててきた家族の日々に想像を巡らせ、リスペクトしてほしい。そこからおのずと、温かいまなざしや目の前の親子を大切に思う気持ちが生まれ、その親子を支えることになると思う」と語り掛けた。
引用元:
早産児を社会全体で支えるために 〜小さな赤ちゃんと家族が抱える課題を知ろう〜(時事メディカル)