日本の2022年の出生数は約77万人と、統計を開始した1899年以来初めて80万人を下回った。少子化対策は急務だ。
少子化対策の1つとして、2022年4月から「不妊治療」の保険適用が始まった。不妊治療の経済的な負担を減らし、より多くのカップルに門戸を開くことになった。一方で「不妊治療の現場にはまだ課題が多い」と指摘するのが、不妊治療の課題解決を目指すスタートアップ・vivolaの角田夕香里CEOだ。
vivolaは、データとAIを駆使して不妊治療を支援しようとしている東工大発のスタートアップ。自身も不妊治療経験者である角田さんと、杉山産婦人科丸の内の黒田恵司院長に、不妊治療現場の課題やデータ解析がもたらす新たな可能性を聞いた。
※取材の様子は、こちらのYouTubeや各種Podcastサービスからご覧いただけます。
少子化対策の1つとして、2022年4月から「不妊治療」の保険適用が始まった。不妊治療の経済的な負担を減らし、より多くのカップルに門戸を開くことになった。一方で「不妊治療の現場にはまだ課題が多い」と指摘するのが、不妊治療の課題解決を目指すスタートアップ・vivolaの角田夕香里CEOだ。
vivolaは、データとAIを駆使して不妊治療を支援しようとしている東工大発のスタートアップ。自身も不妊治療経験者である角田さんと、杉山産婦人科丸の内の黒田恵司院長に、不妊治療現場の課題やデータ解析がもたらす新たな可能性を聞いた。
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2021年には全出生数約81万人に対し、体外受精による出生数は約7万人にも上る。約8%の子どもが体外受精で生まれている計算だ。
「そもそも人間は他の動物と比較すると妊娠しづらい生き物なんです」
黒田院長は妊娠の難しさをこう語る。健康なカップルが適切なタイミングで性交渉をしても、ひと月に妊娠できる確率は20%ほどだと言われている。晩婚化なども相まって、日本では不妊治療の件数が増えている。
不妊治療には、妊娠しやすい期間に性交渉をする「タイミング法」や、精子を採取して適切な濃度にして細い管で子宮に送り込み受精を促す「人工授精」。さらに女性の体から卵子を採取(採卵)して体外で精子をふりかけて受精した受精卵を体内に戻す「体外受精」など、さまざまな手法がある。
「どんな病気でもそうですが、不妊治療もまずは原因を見つけてそこをつぶしてあげることが1番の治療です」(黒田院長)
ただ、不妊の原因を特定することは非常に難しい。
その理由は大きく2つ。1つは妊娠に影響を与える要素が非常に多く、複雑だからだ。
年齢や疾患といった身体的な状況はもちろんのこと、喫煙などの生活習慣、加えて例えば男性であればAGA(男性型脱毛症)の治療薬の服用といったことでも妊娠のしやすさは変わってくる。妊娠を妨げている要因はカップルによって大きく異なる。
2つ目の理由は、既存の検査では調べられない原因があるケースがあるからだ。
「例えば、排卵障害で1年以上妊娠できなかった人でも、排卵ができればタイミング法でかなりの方が妊娠できます。ですが、ぱっとした原因が分からないまま1年妊娠できなかった方がタイミング法をやったとしても、妊娠率は3%もいかないんです」(黒田院長)
原因が分からない人は、通常の検査だと「健康」だと判断されてしまう。こういった患者の場合、治療を進めながら原因を探索していく必要がある。
不妊治療の現場では、患者ごとに最適な治療方法を選択し、成功率を最大限まで高めることが求められる。ただ、治療方法の選び方は医師によって少しずつ異なると黒田院長は指摘する。
一般的に、医師はクリニック内の過去の治療実績や学術論文などを参考にしながら治療方法を検討する。ただ、原因が分からない中での治療となると、同じ治療法を条件を少しずつ変えて試し、結果を確認しながら進める医師もいれば、自身の得意とする手法から試していくこともありうる。
ただこれでは、患者が治療法に納得できるとは限らない。実際、角田さんは自身が不妊治療を受ける中で「何をよりどころにして次のステップを決めるべきかが分からなかった」と言う。
「不妊治療の成功率は100%ではありません。その際に、患者さんにとって納得のいく治療を受けたと思えることがすごく重要なのだと思っています。私たちはその『納得のいく治療』が、エビデンスがあって、個人に最適化された治療だと思っています」(角田さん)
ビッグデータ解析がもたらす不妊治療の新たな可能性
「個人に最適化された治療」をどう実現するか。そこで重要となるのが「ビッグデータ」だ。
これまでも医師がデータを活用していなかったわけではないが、参照できるデータ数には限度がある。カルテが電子化しているといっても、医師個人が日常の診察業務に加え、データを細かく分析して治療方針の最適解を見出すのは難しかった。
ビッグデータをもとにAIで診断をサポートすることができれば、不妊治療の「確度」を高めることが期待できる。
黒田院長も
「各患者さんに対して、こういう治療をやったほうが妊娠するのか、あるいはやらないほうがいいのかという判断は難しいんです。ビッグデータを活用することで、その判断ができるようになります」
と期待を語る。
医療分野へのビッグデータの活用は、まず「画像解析」の分野が先に発展してきた。不妊治療分野でもまず画像AIを活用した取り組みが進んでいる。例えば、体外受精の際に採取する精子や、胚(受精卵の初期段階)の膨大な画像をAIに学習させることで、妊娠率の高そうなものを判定する研究が進んでいるという。
一方でvivolaが力を入れているのは、血液検査の結果などの「患者の健康状態」や、「薬の処方履歴」といった、カルテ上に記載されているさまざまなデータを総合的に分析して、そこから治療方針を見出す取り組みだ。
カルテ上には、卵巣刺激のためのホルモン剤をどのように選択し、どのように投与したかといった情報に加え、「その結果良い卵が育ったかどうか」や「採卵日までに均一に育てられたか」といった結果までが時系列データとして記録されている。
vivolaでは、全国のクリニックから20万周期※以上にも及ぶデータを収集。クレンジング(データ整理)した上で、データベース化し、医療従事者に提供しているという。
※周期とは、月経(生理)が来てから次の月経が来るまでの期間を指す。1周期で体外受精を1回実施できる。
医師はデータベースにアクセスし、患者の条件などを選択して分析ボタンを押すだけで、その患者に最も適した治療方法の提案を受けられる。また、データベースはさまざまな切り口で整理できるため、患者を診る中で生じた仮説を、データベースを活用して検証していくことも可能だ。
「このような条件の患者には、こういった治療法が良さそうだとデータを根拠に提示できることは、現場としてもとても助かる」(黒田院長)
もちろんデータで説明できるものには限界もある。希少疾患などの事例が少ないケースでは、例えデータをもってしても言えることには限りがあるからだ。ただそれでも、データの母数を増やしていくことで、不妊に悩む患者に治療の道筋を示すきっかけになる可能性を秘めている。
自身の経験が創業の糧に
角田さん自身も、かつては患者として不妊治療を受けた一人だ。
そのとき感じたのが、治療法の成否や良し悪しについて「数値で理論的に語ってもらえることは少なかった」というモヤモヤだった。これがvivolaの創業の背景にある。
自身と同じ年齢や状況にある他の患者は、どのような治療を選択し、実際にどれくらい妊娠できているのか。納得感が得られないまま、周期に合わせてひたすら治療を進めていく状況が続いた。
「目の前の体外受精の結果をどのように受け止めるべきか、何を拠り所として次のステップを決めるべきかが分からなかった」
と当時を振り返る。
不妊治療では、同じ治療を何度も繰り返すことはよくあることだ。しかしどうしても、治療結果は「妊娠した」「妊娠しなかった」というゼロイチでしか判断できず、ほかの病気のように徐々に良くなっていくことを実感できるものでもない。「他の病気であれば治療をした結果がフィードバックとなるが、不妊治療の場合はそれがなくてすごく辛い」と角田さんは語る。
そういった意味で、不妊治療にビッグデータを活用することのメリットは、治療成績を上げることだけにとどまらない。不安を感じやすい患者に対して「なぜこの治療を続けるのか」をビッグデータによって客観的に伝えることで、患者も「納得」した上で治療を受けることはもちろん、
「お子さんを授かることができず、次のライフステージに進むとしても、納得のいく治療を受けることができたと思うことが重要なのだと思います」
と角田さんは語る。
※この記事は、Business Insider Japanのビデオポッドキャスト番組「DeepTech研究所」の内容を一部編集したものです。全編をご覧になりたい方は、各種ポッドキャストサービスかYouTubeをご利用ください。
引用元:
出生数80万人割れ、不妊治療大国日本で求められる「納得できる治療」。データは患者を救えるか(BUSINESSINSIDER)