経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表した調査データによると、世界33ヵ国の中で日本人の一日の平均睡眠時間(睡眠に充てる時間)は7時間22分と最短で、全体平均(8時間28分)よりも約1時間少ないという結果。また、男女別にみると男性より女性のほうが13分短いとも報告されています。よって日本人女性は世界で最も眠れていないといっても過言ではありません。なぜ十分な睡眠をとることができていないのでしょうか。その原因をはじめ、睡眠時間を確保すべき理由や確保するコツなどを、睡眠コンサルタントの友野なおさんに教えていただきました。
(以下、友野さんによる寄稿です)
初潮を迎える頃から睡眠トラブルを抱える
日本人女性の平均睡眠時間が男性よりも短いことは様々な調査や研究で明らかになっていますが、そもそも女性は女性ホルモンの影響を受けて睡眠の質が低下しやすいともいわれています。
特に、月経困難症の症状が重い女性は、症状が軽度の女性と比較して、入眠までの時間や夜中に覚醒している時間が長く、中途覚醒の回数が多いこと、眠りが浅いこと、睡眠効率や主観的な睡眠の質が悪いことが指摘されています。
また海外の研究では、月経異常(生理不順など)がなくても月経周期によって睡眠構築が変わるといわれており(※1)、このメカニズムには、月経に伴う身体の痛みや(※2)排卵後から月経までプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が多くなる黄体期の深部体温の上昇による深い睡眠の減少が背景にあると考えられています(※3)。
さらに、睡眠と覚醒のリズムをつかさどる睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンも月経周期によって分泌量が変化し、健常な成人女性においても、黄体期は卵胞期に比べて、一日のメラトニン分泌量が減少(※4)。これらを考慮すると、黄体期にはプロゲステロンの増加とメラトニンの減少に伴い、睡眠の質が低下する可能性があり、初めての月経を迎える頃から女性は、男性よりも睡眠についてのトラブルを多く抱えていることが想像されます。
月経以外でも、妊娠と出産、子育て、そして子育てが一段落すると閉経を挟んだ前後5年間の更年期などに伴って睡眠リズムが乱れたり、ホルモン分泌の変調により、睡眠不足になるといったことが起こります。そのあとは高齢期に伴い、睡眠の問題が発生する可能性もあり、女性はライフコース全般で睡眠トラブルを抱えやすいといえます。
妊娠・出産に伴う睡眠トラブルは6年続く
まずは妊娠期における睡眠についてお伝えしたいと思います。妊娠に伴うホルモンの変化や、子宮の増大によって生じる様々な不快症状をマイナートラブルというのですが、全身症状としては便秘・頻尿・肩こり・腰痛・倦怠感・易疲労など、精神症状では抑うつ・イライラ感などを引き起こします。
妊婦486名の71.0%が睡眠習慣の変化を感じ、51.2%が不眠症であったというデータがあり(※5)、ほとんどの妊婦が中途覚醒を経験しているといった報告があります(※6)。
そして、子どもが無事に生まれてきてくれてホッとしたのも束の間、新生児はお母さんの真っ暗なお腹の中で成長してきたので昼と夜の区別がまだできません。生後1ヵ月の赤ちゃんは時間に関係なく目覚め、短い睡眠と覚醒を繰り返し、睡眠パターンは一定ではありません。夜中に1時間おきに起きる子もいれば、3時間まとめて眠る子もいて個人差はあるものの、生後3〜4ヵ月頃になると朝起きて夜眠るという睡眠パターンが定着し始めます。
授乳や夜泣きがある間、お母さんは赤ちゃんに合わせた生活リズムで過ごすことが基本となります。イギリスのウォーリック大学、アメリカのウエストバージニア大学、ドイツ経済研究所が協力し、ドイツ在住の人々を対象として行った研究の結果によると、母親の睡眠時間は妊娠前と比較して、第1子誕生後の3ヵ月間で62分減少。睡眠満足度も下がっていました。また、父親も母親ほどではないものの13分減少し、やはり睡眠満足度も低下しています。
4〜6歳時点では、母親の睡眠時間は妊娠前と比べて22分減少とやや回復傾向にあるものの、依然として妊娠前の時間や満足度には届きません。つまり、妊娠・出産に伴う寝不足の影響は最低でも6年間は続くのです。
「やらないこと」を決めると睡眠改善にも
日本は女性が中心となって家事が行われる文化がまだまだ強く残っています。夜は帰宅の遅い夫に合わせて食事を準備したり、朝は早く起きて子どもたちのお弁当を作ったり、家族全員のスケジュールに合わせていくと、どうしても切り詰めるところは自分の睡眠時間になってしまうという現実があります。
女性にとって、睡眠時間を確保することと、その質を高めることは容易ではないということがご理解いただけたかと思います。女性の睡眠に関しては社会全体で生物学的・社会学的の両側面から理解することが重要です。そして、一生懸命に頑張る女性一人一人が「全部自分でやらなきゃ!」と抱え込み過ぎないことも大切です。
例えば、時間的・物理的に難しいことや不得意なことは躊躇なくアウトソーシングして家事や育児をサポートしてくれるサービスを活用する、家族の中で作業を分担できないか相談する、自治体のサポート団体に相談しに行くなど、ご自身にできることからしていき、「眠るための時間」をつくるところから始めてみましょう。
私自身(現在6歳と3歳の子を子育て中)は、少しでも睡眠時間をつくるために、目的を持った場合以外でネットサーフィンをしない、仕事を何でも引き受けない、周囲のサポートはどんどん受ける、物を減らす、ネットでの買い物を中心にする、食洗機や乾燥機能付き洗濯機、お掃除ロボットなどの導入で家事負担をなるべく減らす、ダラダラしたい気持ちのときは必ず時間を区切って休憩するなどを心がけています。
そして、「To do リスト」ではなく、「NOT To do リスト」をつくってみる。「やらないこと」を決めることで無駄な時間が省けて、リフレッシュして自分を労わる時間やぐっすり眠る時間を生み出すことができるようになります。仕事に育児に家事に忙しく走り回る女性は、もはやアスリートのよう。その日の疲労やダメージを翌日に持ち越さないようにしなければ動き続けることは難しくなってきます。
自分のことはつい後回しにしがちになってしまう方も多いと思いますが、できるだけ0時には就寝するよう心がけ、眠る前には5分だけでも良いので自分を労う時間を持ってください。ゆっくり深呼吸をする、ストレッチをする、ハーブティーを飲むなど何でも構いません。自分に「今日もお疲れさま」と声をかけ、ほんの少し口角を上げてみましょう。気持ちが穏やかになることで寝つきが良くなり、睡眠効率も睡眠の質もぐっと高まります。「自分を大切に」は女性の睡眠改善のための大切なキーワードなので、ぜひこの言葉を忘れないでくださいね。
[参考文献]
※1 Leeder J, Glaister M, Pizzoferro K, Dawson J and Pedlar C. Sleep duration and quality in elite athletes measured using wristwatch autography. Journal of Sports Science, Volume 30, Issue6,(2012)pp. 541-545.
※2 LeBlanc M, Mérette C, Savard J, Ivers H, Baillargeon L, Morin CM. Incidence and risk factors of insomnia in a population-based sample. Sleep 32(8),(2009) pp.1027-1037.
※3 Baker FC, Driver HS.Circadian rhythms, sleep and the menstrual cycle. Sleep Medicine 8(6),(2007) pp.613-622.
※4 Shibui K, Uchiyama M, Okawa M, Kudo Y, Kim K, Liu X, Kamei Y, Hayakawa T, Akamatsu T, Ohta K, Ishibashi K. Diurnal fluctuation of sleep propensity and hormonal secretion across the menstrual cycle. Biological Psychiatry 48(11), (2000) pp.1062-1068.
※5 Kizilirmak A, et al: Insomnia in pregnancy and factors related to insomnia. The Scientific World Journal 2012 Article ID 197093.
※6 Mindell JA, et al: Sleep patterns and sleep disturbances across pregnancy. Sleep Medicine 16(4), pp.483-488.
引用元:
日本人女性の睡眠時間は世界一短い…トラブルを抱えやすい「女性の睡眠」原因と対策(現代ビジネス)