出産後の母親とその子どもの心身を支える「産後ケア事業」が全国に広がっている。産後の疲労や育児不安で不調を訴える母親は多く、昨年度は8割を超す市区町村が実施した。助産院などの施設が少ない地域では、複数の自治体が連携して取り組んでいる。(小池勇喜)
休息、悩み相談、授乳サポート…84%の自治体実施
わらにもすがる
「順調に育っていますね」「(ここで)ゆっくり休んでくださいね」
神奈川県寒川町の「助産院ママナハウス」で10月上旬、同県藤沢市の公務員、甲斐ひとみさん(38)は、生後11か月の長女と産後ケアを受けた。6時間滞在し、助産師の菊地愛美さん(36)にサポートしてもらった。
夫(34)が仕事で不在がちな甲斐さんは育休を取って、ほぼ毎日、ひとりで家事と育児を行っている。長女の上には4歳の長男がいる。
甲斐さんが産後ケアを初めて受けたのは、長女の出産から半年が過ぎた今年6月。子どもの世話に追われ、心に余裕がなくなっていた。近隣の藤沢市など4市町から事業を受託するこの助産院をフリーペーパーで知り、「わらにもすがる思い」で駆け込んだ。
この日、甲斐さんは長女の発育状態などを相談し、ゆっくり食事や睡眠を取った。「気分転換になった。家族以外に頼れる場所があるのは安心できる」と、ほほ笑んだ。
「頼れぬ」家庭環境
出産・育児を巡っては、核家族化などで周囲に頼れない母親が多い。出産の高齢化が進み、体調の回復に時間がかかる母親もいる。厚生労働省の調査によると、2021年度は10人に1人の母親に「産後うつ」の疑いがあった。
こうした母親とその子どもを公的に支える仕組みが産後ケア事業だ。母子保健法に基づき、市区町村が産後1年以内の母子を対象に実施する。多くは自治体から委託された助産院や病院によって行われる。
こども家庭庁によると、サービスには〈1〉病院などに宿泊する「短期入所型」〈2〉ケアを行う施設に通う「通所型」〈3〉助産師などが家を訪問する「居宅訪問型」――がある。いずれも自治体によって利用できる日数が異なる。希望者は、自治体や利用したい施設に申し込む。
母親は心身の復調を図るため、ベッドなどでゆっくり休み、育児の不安や産後の体の悩みなどを相談する。子どもについては体重や排せつなどを確認してもらい、必要な助言を受ける。そのほか授乳の方法を教わったり、食事を取ったりする。
広域連携で対応
産後ケア事業は21年度から自治体の努力義務となり、22年度は全市区町村の約84%にあたる1462自治体が行った。5年前の17年度に比べ、1000か所以上も増えた。
一方で、約280自治体が実施していない。埼玉県のある自治体担当者は「産後ケアを行える医療機関がない」と話している。こうした問題について、同庁は近隣の複数の市区町村で広域連携し、助産院や病院がない自治体をカバーするよう促している。
その手法を取り入れているのが大分県だ。全18市町村のうち、16市町村が22年度までに連携して産後ケア事業を始めた。残る2町は広域連携より早く事業を導入しており、大分県民なら、どこに住んでいても産後ケアを受けられるようになったという。
同庁の担当者は「24年度末までに全国展開できるよう取り組みを進めたい」としている。
利用 断っていた事例も
産後1年以内の母親とその子どもなら、必要に応じて誰でも利用できる産後ケア事業。多くの自治体で導入されているにもかかわらず、利用率は高くない。専門家は助産師ら関係者に、もっと周知するよう求めている。
厚生労働省が産後ケア事業について市区町村からの報告をまとめた調査結果によると、2021年度の利用者の割合は対象者の6%だった。
市川香織・東京情報大教授(母性看護学)は、「母親が『自分は対象外だ』と思ったり、利用を遠慮したりしてしまうケースがある。妊娠中から、助産師らが事業の存在や内容を説明し、支援の必要な人がためらわずに利用できるようにすべきだ」と語る。
また、野村総合研究所が今年3月にまとめたアンケートによると、152自治体が何らかの理由で希望者の利用を断っていた。
これらを踏まえ、こども家庭庁は23年度、産後ケアの利用料減免の対象を全産婦に広げ、利用しやすいようにした。また、実施要綱を見直し、支援を必要とする全ての人が利用できることを明記した。
引用元:
母子保健法に基づく「産後ケア事業」 利用率は対象者の6%…遠慮してしまうケースも(ヨミドクター)