不妊治療で行う体外受精の過程で、複数の受精卵を凍結保存する技術が普及してきました。しかし、それに伴って、凍結した受精卵をいつまで保存するのか、破棄するのかが新たな悩みになっているようです。母体に移植したら我が子として育つかもしれない受精卵。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にも、その破棄の是非をめぐって揺れる当事者の声が寄せられています。「出産後の凍結受精卵の保存延長について」のタイトルで投稿してきたのは、子宮外妊娠し、片方の卵管を切除した経験がある「ねこ」さん。その後に不妊治療を始め、採卵、体外受精を行って、2回目の移植で子どもを授かり、無事出産しました。今は子育ての真っ最中です。
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ただ、医療機関に凍結受精卵がまだ二つ保存されている状態で、保存期間は間もなく満了になります。期間延長の手続きをしなければ、そのまま廃棄となってしまうため、悩み始めたそうです。
「夫は、子どもは1人でいいと言っており、2人目は今のところいらない考えです。私も今のところは2人目を考える余裕がありません。しかし、この先もしかしたら2人目がほしいって思うかもしれないし、せっかく受精してくれた卵を捨てるのもかわいそうに思っています」と「ねこ」さんは打ち明けます。
「『でも、また移植したからといって、着床して子どもができるかもわからない』などといろいろ考えてしまって……こんな悩み、不妊治療している人にはぜいたくな悩みだし、不妊治療をしていない人には理解されないし、誰にも相談できません。もし、みなさんだったら延長しますか? しませんか?」と発言小町に問いかけました。
これに対し、同じように複数の卵や受精卵を凍結した人たちから、レス(反響)が寄せられています。
踏ん切りがつかず、何度か保存を延長
「一応とっておくのはどうでしょうか。私も体外受精し、去年第1子を授かりました。卵が四つ残っており、凍結しております。確かに凍結管理料はかかりますが、もし2人目が欲しいと思った場合、卵がなければまた採卵からしなければなりませんし、その分、年もとって良い卵ができないかもしれません」(「ごぼう」さん)
「私は受精卵の保存を終了するのになかなか踏ん切りがつかなくて、何度か延長しました。自分が病気したことから二人目は無理とわかっていながら、なかなか廃棄については決心できませんでした」(「ガオガオ」さん)
「私も体外受精で授かり、6個の卵がありました。初年度は全て残し、20万程度かかりました。2年目は悩みましたが、二つに絞り、今も保管中です。子どもをいつ作るかも、作らないかも未定です。ですが、30代前半の貴重な卵ですから…保管しておく選択肢しかありませんでした。お金はかかりますが、私は少なくとも40歳までは保管します」(「らら」さん)
こうした書き込みが相次ぐ背景には、不妊治療を行ったとしても妊娠までたどり着くことが難しい実態もあるようです。
「私は、移植9回目でようやく授かり出産しました。私もあと6個の胚盤胞(着床できる状態に変化した受精卵)と1個の初期胚を凍結してありますが、私の場合、この数でも妊娠できるかわかりません。なにしろ約15個の胚盤胞でやっと妊娠したのです。最終的に妊娠した胚盤胞を作るまでも、採卵5回70個以上を採ってようやくでした」(「しろくま」さん)
一生後悔するかも…
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発言小町には、「ねこ」さんのほかにも、「凍結受精卵を破棄するのが悲しい」という女性からの投稿が寄せられています。
第1子を体外受精で授かったトピ主「黒猫」さんは40歳。第1子の体外受精に際して、使わなかった二つの受精卵を凍結保存してきました。もうすぐ更新時期を迎え、「破棄するしかない」と考えつつも、「芽生えた命の源を 棄す ててしまうようで、つらいのです」と心情を吐露。さらに、「無事に健康に産んであげられる自信も体力もない。でも、破棄したとしても一生後悔して罪悪感を感じながら生きていくような気がします」と苦しい胸の内をつづっています。
この思い詰めた独白には400回以上、エールボタンが押されています。
不妊や出産にまつわる体験談などを集めたウェブサイト「UMU」は、2022年9月に「受精卵が棄てられない」と悩む15人の女性にアンケート調査を実施しました。それによると、凍結卵の年間保管料は、健康保険の適用がない場合、凍結卵1個あたり年間2万円から5万円もかかり、多くの女性が個数を絞って保管している実態がうかがえました。
アンケートをまとめたフリー編集者の徳瑠里香さんは「不妊治療は無限に続けられるものではありませんし、現実の子育ての負担感、年齢や経済的な事情などで、どこかで踏ん切りをつけなくてはならないと考えている人は多いです。でも、現実に『凍結受精卵が棄てられない』と苦しむ人がいることは、これまであまり目を向けられてこなかったのでは」と話します。
徳さんによると、「君さえよければ僕はどっちでも」と夫に判断をゆだねられ、なかなか結論を出せずに苦しむケースもあるそうです。「受精卵への思いも人によって大きく違います。受精卵が子どもの命につながった経験があるからこそ、『破棄なんて決断できない』という人もいるし、逆に『もっとドライに考えても良い』という人もいます。簡単に結論が出せる問題ではありませんが、悩んでいる人がいたら、まずは悩んでいるのはあなただけではないとお伝えできれば」と話します。
凍結受精卵を使った方が凍結技術を使わない場合に比べ、妊娠率が高いとあって、凍結受精卵による出産例は2009年ごろから増加の一途です。しかし、もし不妊治療を考えているのなら、その先にはこうした悩みが生まれ得ることを知っておいた方がいいのかもしれません。
(読売新聞メディア局 永原香代子)
引用元:
命の選択?使わなかった「凍結受精卵」保存続けるか、破棄するか 不妊治療の尽きない悩み