[国立大学法人熊本大学]
熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎教授及び島田龍輝助教のグループは、卵子の形成に必要な減数分裂をコントロールする仕組み、癌抑制タンパク質の働きを解除することが必須であることを発見しました。これまで、卵子が作られる際の減数分裂を引き起こすメカニズムの詳細は明らかになっていなかったため、今後の不妊治療などの生殖医療の進展につながる可能性があります。
本研究成果は、日本時間2023年10月25日(水)18時(ロンドン時間10月25日10時)に、Springer Nature社が刊行する科学学術誌「Nature communications」のオンライン版に掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて、熊本大学生命資源研究・支援センター、国立遺伝学研究所との共同で実施したものです。
【研究の内容】
全身の組織・器官では、通常「体細胞分裂」と呼ばれる細胞分裂によって細胞の増殖が行われます。一方、卵巣や精巣では「減数分裂」と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて、染色体の数が元の半分になることにより卵子や精子が作り出されます。男性の場合、精巣では思春期以降になるとほぼ生涯にわたって減数分裂が繰り返されて精子が産生されます。それに対して、女性の場合は胎児の時期(妊娠中の母体の中)の、ごく限られた一時期に卵巣の中で減数分裂が開始されます。胎児の時期に減数分裂に入った卵子は、排卵が起こるまでいったん長期の休眠状態に入ります。
したがって、男性とは違って、女性の場合、生殖細胞が減数分裂に入って卵子になるチャンスは、生まれるずっと前、この胎児期の時期しかありません。女性の卵巣では胎児期の限定された時期に減数分裂に入ることができた生殖細胞によって、生涯にわたって必要とされる生殖可能な卵子の数が決まることになります。しかしながら、胎児のある一時期に限って減数分裂に入る女性に特有のメカニズムは全く分かっていませんでした。今回、減数分裂の開始の仕組みには、男性(精巣)と女性(卵巣)との間で異なる調節があること、そして卵巣に特化した減数分裂の開始の様式に癌抑制タンパク質の働きが関与していることを見つけました。
【展開】
今回の成果はマウスを用いて検証されたものですが、この仕組みはヒトを含むすべての哺乳類に存在することが示唆されます。ヒトに見られる不妊症は原因が不明とされる症例が多いことが知られています。今回の発見は、原発性卵巣不全や早発性閉経など卵子の形成不全や早期枯渇を示す不妊症の病態の解明に資することが期待されます。
また、女性の場合、妊娠中の母親の母体内で胎児の時期に、減数分裂が開始された生殖細胞の数によって、将来大人になったときの卵子の貯蔵数が決定されます。すなわち、女性は生まれる前には、減数分裂が開始されて生涯にわたる卵子が準備されていることになります。妊娠期に癌抑制タンパク質RBに影響を与える可能性のある投薬や、創薬での指針となる可能性があります。
今回研究を進める中で、さらにSTRA8タンパク質を介したRBの解除によって機能が十分解析されていない遺伝子が調節されていることが判明しました。今後は卵子の形成過程におけるこれらの遺伝子の働きを解明することにより、生殖医療に大いに貢献することが期待されます。
引用元:
卵子形成にかかわる細胞分裂の仕組みを解明-卵子形成の減数分裂に癌抑制タンパク質が関与するメカニズムを明らかに-(JIJI.COM)