つらい痛みや不妊の原因になる「子宮内膜症」の発症に、特定の細菌が関与している可能性が高いとする研究結果を、名古屋大の研究チームが国際医学誌に発表した。この病気と細菌感染との関係を示唆する初めての研究結果で、不明な点が多い発症メカニズムの解明につながるだけでなく、抗菌薬(抗生物質)を使った従来とは全く異なる予防、治療法の開発にも道を開く重要な成果だ。その研究内容と今後の展望を関係者に聞いた。
研究結果について語る名古屋大の近藤豊教授、大須賀智子准教授=名古屋市
▽免疫細胞
子宮内膜症は生殖年齢の女性の10人に1人程度で発症しているとされる。月経血が腹腔(ふくくう)内に逆流して子宮内膜細胞が子宮以外の組織に生着することや、子宮外の細胞が子宮内膜細胞の性質に変化することが疑われているが、その詳しい発症メカニズムは分かっていない。治療ではホルモン療法や手術が検討されるが、妊娠への影響や副作用、体への負担などが課題になっている。
名古屋大神経疾患・腫瘍分子医学研究センターの近藤豊教授(腫瘍生物学)らはまず、健康な女性の子宮内膜の細胞と、子宮内膜症患者の病変部の細胞で遺伝子の違いを調べた。その結果、病変部の細胞では、細胞の増殖や他の組織への生着に関わる特定のタンパク質が増えていることが分かった。
このタンパク質を増やすのに「マクロファージ」という免疫細胞が生み出す因子が働いていることも判明。子宮内膜症の患者では、子宮内膜の細胞に多くのマクロファージが集まっていることも分かった。
▽嫌気性の細菌
近藤さんらは、免疫細胞であるマクロファージを集める何らかの感染が起きている可能性が高いと判断し、子宮内の細菌を調べた過去の研究を参照したり、実際の子宮内組織を解析したりした。最終的には幾つかの候補の中から、酸素のない環境で増える嫌気性の「フソバクテリウム」という細菌にたどりついた。
子宮内膜細胞の顕微鏡写真。内膜症の細胞(右)には、左の健康な内膜細胞にいない細菌が白い斑点で写っている(名古屋大提供)
フソバクテリウムは口の中や喉から見つかる細菌で、歯周病や、喉の感染症から派生するレミエール症候群、皮膚の潰瘍に関わることが知られ、近年では大腸がんへの関与も疑われている。
研究チームはさらに、この細菌の子宮内膜症への関与をはっきりさせるため、動物実験や細胞実験も実施。マウスの子宮にこの細菌を感染させると子宮内膜症が増悪することや、抗菌薬でこの細菌をたたくと、病変が改善することなどを明らかにした。
名大病院の患者を対象に既に臨床研究に着手。ヒトでの有効性や、どういった患者に有効なのかなど、詳細を明らかにしていきたいとしている。
▽我慢しないで
大須賀智子名大准教授(産婦人科学)は、今回の発見について「従来のホルモン剤が効かない人で治療の選択肢になり、子宮内膜症がある一方で妊娠を望む女性にとっても朗報となり得る」と期待する。
多くの子宮内膜症の治療で選ばれているホルモン剤の内服は、排卵を抑制する。また、手術によって卵巣がダメージを負うこともある。このため、妊娠を希望する子宮内膜症の患者は治療の選択に悩みがちだ。もしも抗菌薬の有効性が確かめられれば、子宮内膜症の治療と妊娠を目指す不妊治療とを両立できる可能性があるという。
その上で大須賀さんは「子宮内膜症に限らず、月経の不調や痛み、つらさがあっても我慢する女性が多いが、ぜひ医師に相談してほしい」とアドバイスする。子宮内膜症の予防や早期の治療につながるだけでなく、将来の妊娠、出産への支障もより少なくて済むという。(共同=由藤庸二郎)
引用元:
子宮内膜症、細菌が原因か 発病メカニズムで新知見 名大、治療法開発に道(47news)