妊娠9週までを対象とした国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」の流通が5月中旬から始まった。これまで初期中絶には手術しか方法がなく、妊婦らの新たな選択肢として期待がかかる一方、相応の副作用など留意点も多い。犯罪防止の観点から医療機関側には厳格な使用量管理も求められており、まずは慎重な滑り出しとなった。

納品はわずか

製造販売元の英製薬会社「ラインファーマ」によると、卸売業者への販売は5月16日から開始。処方を希望する医療機関には事前の研修と登録を求めており、同29日時点で日本国内の約180施設から登録申請があったという。一部施設には既に納品され、妊婦への処方例も確認されている。

納入済み医療機関の1つ、日本鋼管病院(川崎市)では、メフィーゴパックによる中絶治療開始を先月末に同院ウェブサイトで公表。複数の問い合わせがあった。入院の必要があることなどを伝えると既存の手術を選択する人もおり、今のところ同院での処方予定は入っていない。

同院の石谷健・産婦人科部長は、現状の流通規模について、「登録した180施設は、将来的に使う可能性を見越しての対応。納品まで至ったのは当院を含めまだわずかで、現場としては、まずは様子見という段階だろう」とみる。
月次報告も

母体保護などの観点から、メフィーゴパックには厳格な運用ルールが設定されている。

薬を処方できるのは、母体保護法の指定医がいる医療機関のみで、使用できるのは入院や院内待機が可能な有床施設に限定された。

多くの場合10〜15分で完了する手術とは異なり、2種類の薬剤を時間差で服用し、出血などを伴いながら少しずつ子宮内容物を排出。1剤目服用から中絶完了まで3日程度かかるため、容体急変時の対応などを考慮した。

海外では自宅服用が認められている国もあるが、本人が子宮内容物を視認することになり、心理的な負担にも配慮した。

また、使用状況の管理のため、ラインファーマ社と医療機関は毎月、販売数と使用数を各都道府県医師会へ報告することが求められ、数に著しい差異がある場合などには関係機関が状況を確認する。厚生労働省によると、過去、女性に無断で薬を投与し堕胎させる「不同意堕胎」の疑いで医師らが逮捕されたケースがあり、悪用を防止する。
若年層以外でも

厚労省によると、国内で令和3年度に行われた人工妊娠中絶は約12万6千件で、大半が妊娠12週未満だった。この時期の中絶に対応するメフィーゴパックには一定の需要が見込まれる。同省は今後、適切な使用体制などが確立されれば、無床施設での利用解禁も視野に検討するとしており、環境は拡大していくとみられる。

関東中央病院(東京都)の稲葉可奈子・産婦人科医長は「スタートを切ったこの時期にトラブルが頻発すると、リスク面ばかりが強調され、適正に活用されなくなる可能性がある」と指摘。「医療者側が、起こりうる事態を丁寧に説明し、患者と納得の上で進めていくことが普及のためにも大事だ」と訴える。

また、人工中絶は近年、15歳未満〜29歳と30歳以上で件数が拮抗(きっこう)している。稲葉氏は「望まない妊娠は若年層中心とのイメージがあるが『年齢的にない』と考えていた40代に訪れることもある。新薬導入を機に、幅広い年代へ的確な避妊方法などを周知していくことも重要」としている。(中村翔樹)

引用元:
初の経口人工妊娠中絶薬、厳格運用で慎重スタート(産経新聞)