自分の子どもが最初に話す言葉は親にとって気になるものですが、そもそもどうやって子どもたちは言葉を覚えていくのでしょうか。慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみさん、名古屋大学大学院人文学研究科准教授の秋田喜美さんいわく、実は赤ちゃんも、ことばの音とそれに合う対象を認識できるとのことで――。

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◆音と形の一致・不一致がわかるか

ある対象(モノ)といっしょにことばの音声を聞いたとき、そもそも赤ちゃんはそれをどのように認識しているのだろうか? まずこのことを調べたい。子どもに自分の考えをことばで表現してもらうことは、4、5歳くらいでも簡単ではない。

ましてや話ができない赤ちゃんの認識をいったいどのように調べることができるのだろうか?

この年齢の赤ちゃんは、知っていることばが非常に少なく、情報処理の能力も限られている。そのことばを聞いたことがあっても、正しい対象をすぐに見つけることは難しい。

たとえばモニターにボールとバナナの絵を提示し、「ボールを見て」と言われてもすぐにボールを見ることができない。「ボールを見て」と言われてボールを見るために必要な情報処理はかなり複雑である。

(1)この文を単語に切り分けて「ボール」ということばを取り出す
(2)自分の記憶貯蔵庫にある「ボール」という音の列と照合する。
(3)さらに、その音と結びついたモノのイメージにアクセスして、今見ているモノが自分の記憶にあるイメージと「同じ」かどうかを判断する。
(4)上記の判断に基づいて、「ボール」と判断した対象を見る。「見る」という行為自体、眼球を動かして対象に視線を向け、駐留させる、という運動制御も必要である。

このように「ボールを見て」に「正しく反応」するためには複雑な情報処理が必要で、「ボール」ということばを知っているか否かということ以前に、11か月の赤ちゃんには情報処理能力の点からハードルが高い。

◆脳波で調べたところ

では「見る」ことをどうやって調べる(=測る)のか。発達心理学者はよく脳の反応を用いる。脳の情報処理は、電気信号の伝達で行われる。外界から視覚情報や聴覚情報が入ってきた瞬間から、脳の情報処理のタイムラインに沿って、脳のさまざまな部位での電気信号が変化する。

この変化を測定することが可能である。しかもこの脳の反応(脳波)は、赤ちゃんが指示に従って対象を見たり、手を伸ばして取ったりという特別な行動を取る必要がなく、情報処理に負荷がかからない状態で赤ちゃんの認識を調べることができるという利点がある。

もう一つ、脳波を使ったこれまでの研究でおもしろいことがわかっている。1歳を過ぎた赤ちゃんに、知っている単語を聞かせ、モノを見せたとき、モノが単語と合っているときと、合っていないときで、違う脳波のパターンが見られるのだ。

たとえば「イヌ」という音なのに、絵はネコの絵だとする。すると、「イヌ」という音と同時にイヌの絵が見せられたときに比べ、音の始まりから0・5秒くらいたったところ(400ミリ〜600ミリ秒)で、脳の左右半球の真ん中付近、正中線上に沿った部分の電位が下がる。

これは、大人でも単語と指示対象が不整合だったり、文脈に合わなかったりしたときに見られる反応で、一般的にN400と言われる。Nはネガティヴ(陰性の電位変化)、400は400ミリ秒を指す。

つまり、赤ちゃんが音声を「ことば」と認識し、ビジュアル刺激(絵)をそのことばが指し示す対象としては「おかしい」と判断するときに見られる反応である。これを踏まえて筆者らは、生後11か月の赤ちゃんを対象に、脳波を認識の指標とした実験を行った。

どっちが「モマ」?どっちが「キピ」?(『言語の本質』より)

◆ことばの音が身体に接地する第一歩

上記の2つの図形のうち、どちらが「キピ」で、どちらが「モマ」だろうか? 

ほぼ全員が、丸い方が「モマ」で、尖っている方が「キピ」であると直感的に感じる。この直感は日本語話者だけではなく、世界中の異なる言語話者の間で共有されているようである。この直感的な音と形のマッチングを、11か月の赤ちゃんも感じることができるのだろうか?

このことを調べるため、赤ちゃんにことば(音)と対象の組み合わせを次々と提示していった。そのうちの半分は「合っている」組み合わせ(丸い形に「モマ」、尖った形に「キピ」)で、残りの半分は「合っていない」組み合わせ(丸い形に「キピ」、尖った形に「モマ」)である。合っているペアと合っていないペアは規則性を持たないようにランダムな順序で提示した。

筆者らはこのように予測した。音と形が合っているか合っていないかを赤ちゃんが認識できるならば、二つのケースで違う脳の反応が見られるはずだ。

実際、この仮説は正しかった。しかもそれだけではなく、なんと、「合っていない」組み合わせを提示したときに、大人が「イヌ」という音を聴いてネコの絵を見たときと同じ反応、つまりN400の脳波の反応が見られたのである。

◆音に合うモノは何かを理解している

この結果はおもしろい可能性を示唆している。まだほとんどことばを知らない11か月の赤ちゃんは、人が発する音声が何かを指し示すものであることをうっすらと知っているのだ。

しかも、「音の感覚に合う」モノが、単語が指し示す対象かどうかを識別している。だから単語の音声が、音の感覚に合わないモノと対応づけられると違和感を覚えるのだ。

対象とことばの音が合うと、脳の左半球の言語の音処理を担う部位も活動するが、それより強く右半球の環境音を処理する部位(上側頭溝)が活動するのである。

実は言語学習をまだ本格的に始めていない赤ちゃんも、ことばの音と対象が合うと右半球の側頭葉が強く活動することがわかった。

脳が、音と対象の対応づけを生まれつきごく自然に行う。これが、ことばの音が身体に接地する最初の一歩を踏み出すきっかけになるのではないか。

引用元:
言語学習を始めていない赤ちゃんも「ことばの音」と「モノ」の一致を識別していた!?脳波を調べて分かった驚愕の事実(YAHOO!JAPANニュース)