「赤ちゃん忘れ症候群」というヒューマンエラーがある。その名の通り、大切な子供の存在を忘れてしまう記憶の欠落だが、忘れられた場所が車の中であれば熱中症などによる悲劇につながってしまう。大阪府岸和田市では1カ月前、乗用車の中に取り残された女児(2)が熱中症で死亡する痛ましい事故があった。父親が娘の存在を失念していた可能性があり、大阪府警が重過失致死容疑を視野に経緯を調べている。ただ「条件が重なれば誰にでも起こり得る」と専門家。有効策はあるのか。
11月12日、岸和田市の市立保育所駐車場に止めた車内から意識不明の女児が見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された。死因は熱中症。府警などによると、父親は死亡した女児を含む3人の娘を乗せて自宅を出発したが、女児だけを保育所に預けるのを忘れ、帰宅したとみられる。女児は約9時間も車内に放置されていたとみられ、府警が詳しい状況を調べている。
《どうやったら忘れるの》《子供は人形じゃないんだよ》。衝撃的なニュースに交流サイト(SNS)では辛辣(しんらつ)な言葉が並んだ。だが、同様の事故は実は全国で相次いでいる。
茨城県つくば市では令和2年6月、保育所に預け忘れられた女児(2)が車内に約7時間放置され死亡する事故が発生。重過失致死容疑で書類送検された父親は当時、新型コロナウイルス禍のため在宅勤務をしており「仕事が忙しくて頭がいっぱいだった」と述べたという。新潟県でも今年5月、1歳5カ月の男児が車内に約3時間放置され死亡する事故が起きた。出勤途中に保育園に預けるはずだった父親は、男児の存在を忘れ職場に行ってしまったという。
こうしたミスは特別なことではないという。人間の心理に詳しい新潟青陵大大学院の碓井真史(まふみ)教授は「人は忘れる生き物であり、条件さえ整えば誰しもが起こす可能性がある」と指摘する。
碓井氏によると、習慣として行っている日常的な行動の中に、「今日だけの特別」が加わった場合には特に注意が必要という。
例えば、車で自宅から会社に直行することを習慣としている人が、その日だけ保育園に子供を送り届ける役割を担った場合。通勤というルーティンを進行する中で、その人に定着している「習慣的記憶」が強まってしまい、任されていたはずの子供の通園を忘れてしまう可能性があるというのだ。ストレスや疲労が蓄積されていたり、考え事をしていたりすると、よりこの傾向が強まる恐れがある。
幼い命を守るために必要なこと
車社会の米国ではこうした現象が頻発し、研究も進む。1995〜2002年、車内での熱中症で亡くなった171人(5歳未満)のうち、大人が車内に置き去りにしたケースは125人。うち68人が「子供の存在を忘れてしまっていた」と回答した。状況を調べると、その約半数が保育園などに連れていくつもりだったが、子供のことを忘れたまま通勤していた。
どのような対策が有効なのか。佐久総合病院佐久医療センター(長野県)の坂本昌彦・小児科医長は、後部座席に仕事で使うかばんや貴重品など大事なものを置くことで「後ろを確認せざるを得ない状況を作ることが大切」と話す。チャイルドシートを助手席の後ろに設置し、運転席から死角になることを防ぐ方法も有効だ。また子供を保育園に送り届けたらパートナーに連絡するようにし、連絡がなかった場合に注意喚起し合うなどの安全策も考えられる。
坂本氏は「どんな人でも事故は起こり得ると知っておくことが予防につながる」と話した。(木下未希)
引用元:
<特報>「赤ちゃん忘れ症候群」 悲劇は誰にでも起こり得る(産経新聞)