難治性の血液がん・成人T細胞白血病(ATL)などの原因となるウイルス「HTLV―1」に感染した母親について、厚生労働省は、子どもへの感染予防を目的に、これまで推奨していなかった生後3か月以下の乳児に対する母乳の短期授乳を条件付きで容認する方針を固めた。従来は母乳を一切与えない手法を原則としていたが、短期授乳であれば感染率に差がないことが判明した。同省の研究班が対策マニュアルを改訂し、近く公開される。(中村直人)
厚生労働省

 HTLV―1は国内の推定感染者数が100万人前後とされ、九州を初めとする西日本に多い。数十年もの潜伏期間を経て、感染者の5%程度がATLを発症。そのほか、歩行障害を招く国指定難病のHTLV―1関連脊髄症(HAM)などになる場合もある。

 主な感染経路は、母乳を介してウイルスが子どもにうつる母子感染とみられる。感染率は15〜20%とされ、2011年からは全ての妊婦が検診の際に公費で検査を受けられるようになった。

 17年には厚労省研究班が科学的な根拠に基づいて「母子感染予防対策マニュアル」を作成。母親が感染者の場合、子どもを最初から人工乳(ミルク)だけで育てる「完全人工栄養」を「原則として勧める」と明記している。

ただその後、研究班が1980年代以降の複数の研究結果を統計的に解析したところ、母乳の授乳期間が6か月以下の場合、母子感染のリスクが人工乳と比べて約3倍高くなるが、3か月以下では明らかな差を見いだせなかった。

 母乳には乳児に適した栄養成分が含まれ、免疫機能の向上などの利点がある。親子のスキンシップの目的もあり、厚労省の調査(2015年)によると妊娠中の女性の9割以上が「母乳で育てたい」と回答した。実際に母乳を与えているのも、生後1か月で約97%、3か月で約90%に達していた。

 こうした現状から、改訂するマニュアルには「一律に完全人工栄養を勧めるのではなく、母親の選択を最大限尊重する」との考えを盛り込むこととした。

 一方で、3か月が過ぎた後も子どもが哺乳瓶を使った人工乳への切り替えを嫌がるなどし、そのまま母乳を続けて感染リスクが上昇する可能性も考えられる。そのため、短期授乳については、人工乳への切り替えに葛藤する母親に家族や助産師、保健師らが寄り添い、確実に移行できるよう支援体制の整備を前提条件とすることにした。

 改訂を担当した厚労省研究班の内丸薫・東京大教授(血液内科学)は「3か月以下の短期間とはいえ、授乳を強く望む感染者の母親にとって、今回の改訂は朗報と言える。今後はこうした母親への支援体制を一層整備することが求められる」と指摘している。

引用元:
白血病ウイルス感染の母親からの授乳、生後3か月以下は容認へ (読売新聞)