健康保険の適用範囲拡大や医療技術の発展など、不妊治療を取り巻く環境の整備が進んでいる。一方で治療の末に「産まなかった」女性の心理面のケアは見落とされがちという。関西大の香川香教授(臨床心理学)は、不妊治療を断念した女性が、子のいない人生をどう捉えているのかを調査し、支援に生かそうとしている。
香川教授は2021年2月、インターネットでアンケートを実施。過去に不妊治療経験がある35〜60歳の女性223人の回答を分析した。
不妊治療を断念した女性の心理拡大
不妊治療を断念した女性の心理
アンケートは、過去の不妊治療中の心理的サポートについて、配偶者や親、友人、職場関係者、看護師や医師のそれぞれについて「全く支えられなかった」から「とても支えられた」まで6段階で問うた。また、経済的、心理的、身体的、就労上など、不妊治療終了に影響した要因の程度について質問。また、子どものない人生の捉え方に関して「不妊を受け入れられない」「治療をやりきった」「人生を誇りに思う」「人生は思う通りにならない」などの45項目で、回答を求めた。
その結果、54人(24・2%)が配偶者について「とても支えられた」と回答した。治療中に親や配偶者らのサポートがあった場合は人生を前向きに捉え、なかった場合は悲観的に捉える傾向がみられたという。
不妊治療終了に影響した要因については、心理的要因の平均値が最も高く、113人(50・7%)が「とても影響した」と回答。治療を終わらせた理由が経済・就労上の問題だったり、配偶者や親の考えだったりと、自分が納得していない場合は、人生を否定的に考えるケースが多いこともわかった。
これらの傾向を分析したところ、治療を断念した女性の心理は、「子のない人生の拒絶と悲嘆」「他者や社会への貢献意欲」「自己の人生への自信」「ありのままの人生の受容」の四つに大別されることがわかった。
不妊治療終了後に関する国内の研究事例はまだ少なく、香川教授は「結果は当たり前のように感じるかもしれないが、一般的な傾向を数量的に明示することができたので、適切な支援を考える上で重要な資料になる」とみる。
厚生労働省などによると、20年の国内の出生児の約13・9人に1人が、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療で誕生した。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(21年)では、不妊の検査や治療経験がある夫婦の割合は22・7%(4・4組に1組)に上り、15年の前回調査時の18・2%(5・5組に1組)よりも増加している。
不妊治療に伴う仕事や費用、時間など、目に見える負担については支援が届きやすいが、治療の断念からくる心理的負担については、支援が不十分だと香川教授は指摘する。香川教授は「不妊治療の目的はいかに妊娠させるかで、うまくいかなかった場合のケアはおろそかにされてきた。不妊治療がうまくいかないという経験は、アイデンティティーの喪失にもつながる」と語る。【菅沼舞】
引用元:
不妊治療、でも「産まなかった」 おろそかにされる心理面のケア(毎日新聞)