そこで、新たながん治療法として、近赤外光を使用した光免疫治療法の開発が進められており、切除の難しい進行がんの患者の生活の質を、保ちながら実施できる治療として期待されている。

 光免疫療法は、腫瘍細胞を認識する抗体に光で活性化される化合物(光増感剤)を結合させた薬を使用する。薬の活性化には、腫瘍細胞局所に集まった光増感剤に効率よくエネルギーを与えるために、体の深部に到達できる近赤外光を使用する。

 この光照射によってエネルギーを受け取った光増感剤は化学反応を起こし、細胞表面付近で細胞を傷害する物質である「一重項酸素」を発生させる。これにより、光増感剤が集積した腫瘍細胞のみを殺すことで、周囲の正常細胞、組織へのダメージをなくした新しいがんの治療法として開発が進められている。

 研究グループは人工的に合成された、製造しやすい上に腫瘍細胞表面に存在する抗原特異的に結合する抗体ミメティクス薬剤と、人工的に設計された光を当てると一重項酸素を従来薬より多く作る、Ax-SiPcを結合させた治療薬「FL2」を開発に成功した。


 抗体ミメティクスは分子量の大きな抗体を模倣しつつ、分子量を小さくし結合特異性を増すように人工的に設計されたタンパク質。抗がん剤や抗ウィルス剤、イメージング用検査薬として開発が進められている。

 また、Ax-SiPcは近赤外線の照射で活性化されがん細胞など殺すシリコン・フタロシアニン化合物で、垂直方向のリンカーの結合部位を持つ新規化合物。

 新開発された「FL2」は、ヒト乳がん細胞に発現し細胞の増殖などに関係しているタンパク質HER2に特異的に結合する。このため、マウス体内へ投与された「FL2」はマウスへ移植されたヒト乳がん細胞へ集積する。

 研究チームはヒト乳がん細胞を移植した腫瘍塊を持つ10匹のマウスに対し、「FL2」の投与を行い、光照射による治療を行った。

 1回目の治療後、全てのマウスで急激に腫瘍塊の大きさが減少し、肉眼的には腫瘍が消えたように見えても、病理検査ではがん細胞の一部が残り、治療30日後、半分の5匹に肉眼的再発が認められた。

 これら5匹のマウスに1回目と同じ手法で2回目の治療を行い、全例で肉眼的に腫瘍の消失を確認した。さらに1回目の治療後約90日、2回目の治療後約30日目に、10匹全てのマウスの剖検を行い、病理学的にも腫瘍細胞が完全に消失し、治療部分は正常な皮膚の状態へと回復していることを明らかにした。

 また、治療によりがん細胞が受けた影響を確認するため、光照射10日後で治癒途中の治療部位の病理学的な解析を行い、全ての腫瘍細胞は凝固壊死しており、壊死した腫瘍細胞の周りには免疫系の細胞が集まってきていることを確認した。これにより、光免疫療法では光増感剤が集積したがん細胞のみが、光照射により特異的に壊死に至っていることを明らかにした。

 研究チームでは、「FL2反復投与は光が到達できる皮膚腫瘍の根治に効果的であり、腫瘍免疫の活性化に有効な可能性がある」としている。

 さらに、光免疫療法により腫瘍免疫を誘導し、進行がんの根治率を高められれば、増加している進行がんの根治に新たな可能性を与えることになり、「今後、光免疫治療とがん細胞の体細胞変異に由来する変異タンパク質であるネオアンチゲンへのRNAワクチンを用いた腫瘍免疫治療を併用した実験を発展させることで、より広範な進行がんの治療につながることが期待できる」という。

 根治、再発防止が難しいがんでは、治療後も再発に怯えながら生活を送る人も多い。だが、今回の研究結果が実用化され、乳がんだけではなく、他のがん再発に対して有効な治療法になれば、多くのがん患者にとって肉体的にだけではなく、精神的にも安心感を与えることになるだろう。

引用元:
東大研究チーム、再発した乳がんの完全消失に実験成功 進行がんの根治に新たな可能性(日刊サイゾー)