日本において胃がんと肝がんは順調に減少しています。どちらも慢性感染症が主因で、感染症対策ががん予防にもつながっています。他に、子宮頸(けい)がんも慢性感染症が主因の予防可能ながんです。HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉などで子宮頸部に感染し、長い時間をかけて子宮頸がんを引き起こします。現時点ではHPVの慢性感染を治す抗ウイルス治療薬はありませんが、予防するためのワクチンがあります。
HPVワクチンと子宮頸がん検診が子宮頸がん予防の両輪です。HPVにはさまざまなタイプがあり、ワクチンで予防できるのはそのうち病原性が高い数種類のタイプだけです。よってワクチンだけでは十分に子宮頸がんは予防できず、子宮頸がん検診の併用が推奨されています。
ワクチンと検診はそれぞれの苦手なところをお互いカバーしています。従来の子宮頸がん検診では十分に予防できない進行の早いがんの多くは高病原性HPVが原因ですのでワクチンで予防できます。一方、ワクチンで予防できない低〜中病原性HPVが原因の子宮頸がんは進行が比較的ゆっくりですので、検診で前がん病変のうちに発見し、治療すればがんには進行しません。
天然痘のように世界中から患者をゼロにする「根絶」は無理ですが、ワクチンと検診の併用で子宮頸がんの発生率を年間10万人あたり4人以下にする「撲滅」は可能だとされています。ちなみに現在の日本の子宮頸がん発生率は10万人あたり15人ぐらいです。
早くからHPVワクチン接種を開始していたオーストラリアでは2028年には子宮頸がんの撲滅が達成できると予測されています(※)。また、オーストラリアでは男性もHPVワクチンの接種対象となっています。HPVが感染できる粘膜は子宮頸部だけではなく、肛門や陰茎や咽頭にもがんを起こします。これらのがんもワクチンで予防できると考えられますので、女性だけではなく男性にも利益があります。また、女性でも男性でもHPVワクチンを接種する人が増えれば増えるほどHPVに感染している人が減り、ワクチンを接種していない人もHPVに感染する機会が減り、より早く子宮頸がん撲滅が達成できます。
日本では、2013年にHPVワクチンは定期接種となったものの、同年、副作用への懸念から積極的なワクチン接種の推奨は差し控えられました。ワクチンですから一定の割合で副作用は生じます。ですが、世界中で多くのHPVワクチンが接種されている間に重大な懸念は報告されていません。HPVワクチンは十分に安全で有効であるというのが国際的なコンセンサスです。日本でも2021年に積極的な推奨が再開されました。若干の足踏みはありましたが、いずれ日本の子宮頸がんも撲滅されることを期待しています。
※Hall TH et al, The projected timeframe untilcervical cancer elimination in Australia: a modelling study, Lancet PublicHealth. 2019 Jan;4(1):e19-e27.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30291040/別ウインドウで開きます)(酒井健司)
引用元:
子宮頸がん撲滅への取り組み HPVワクチンと検診は予防の両輪(朝日新聞デジタル)