これまでこの連載でも述べられてきたように、男性の尿トラブルには「前立腺」が深く関わっています。前立腺が男性にしかない臓器だということは、多くの人がご存じだと思います。ただ、「前立腺はどんな臓器?」と聞かれたとき、答えられる人はそう多くはないでしょう。そこで今回は、知っているようで知られていない、前立腺について解説していきたいと思います。

 前立腺は男性にしかない臓器で、生殖器の一部です。同じ生殖器でも陰茎や睾丸(精巣)は目で見たり、手で触れたりすることができますが、前立腺は下腹部の奥、膀胱のすぐ下にあるため、外から見たり触れたりすることはできません。膀胱から陰茎に向かって伸びる尿道の根元の部分を取り囲んでいて、くるみや栗の実程度の大きさとよくいわれます。具体的には、一般的な成人男性の前立腺の体積は20mL程度です。

 前立腺には、精液の一部となる「前立腺液」を分泌するという働きがあります。前立腺液にはたんぱく質分解酵素が含まれていて、精子のまわりのたんぱく質を溶かすことで、精子を活性化させます。また、女性の生殖器内に送り込まれると、精子を守る働きもします。

前立腺が肥大することで排尿障害が起きる
 前立腺は、40〜50代から肥大してきます。なぜ、肥大してくるのか、その原因は明らかになっていませんが、加齢以外にはホルモンバランスの変化が影響しているといわれています。

 男性ホルモンのテストステロンの分泌量は、20代をピークに徐々に減少していきます。すると、相対的に女性ホルモンが増加して性ホルモンのバランスが崩れることで、前立腺肥大を誘因すると考えられています。通常は20mL程度の体積が、30mL、50mLと大きくなり、人によっては100〜200mL程度に肥大することもあります。

 前立腺が肥大してくると、前立腺を貫くように通っている尿道が圧迫されて、ホースを押しつぶしたときのように内径が細くなることで、さまざまな排尿障害が起こってきます。この前立腺肥大によって症状が表れる状態が「前立腺肥大症」です。前立腺肥大によって起こってくる症状には、次のようなものが挙げられます。

ちなみに、前立腺が肥大しても、必ず症状が出るとは限りません。例えば、前立腺肥大によって尿道が狭くなっていても、膀胱が収縮する力や、尿を出すときの腹圧をかける力が強ければ、排尿には問題がないこともあります。逆に、前立腺がそれほど大きくなっていなくても、症状が出る場合もあります。

 加齢によって前立腺が肥大するだけでなく、膀胱などが尿を押し出す力が弱くなることで、尿トラブルが起きやすくなるといえるのかもしれません。

 前立腺肥大症をそのまま放置していると、尿が出なくなる「尿閉(にょうへい)」という状態を引き起こします。尿閉の初期には少量の排尿はできても、膀胱に尿が残ってしまい、残尿感や尿の勢いが弱くなる尿勢低下が強く出現します。ひどくなると腎機能の低下をはじめとする重大な合併症を引き起こすことがあります。

 さらに尿閉が進行して排尿が全くできない状態になると、たまった尿で膀胱が膨張して、下腹部に激痛が走ることもあります。そうなってしまうと、尿道からカテーテルを挿入して、膀胱にたまった尿を排出する緊急処置が必要になります。尿閉が起きてしまうと、排尿をコントロールしている膀胱の排尿筋の働きが元に戻らなくなることもあり、最終的には手術が検討されます。そうなる前に、適切な治療を受けることが大切です。

定期的なPSA検査が前立腺肥大症にも有効
 最初にお話しした通り、前立腺は目で見ることができないため、大きくなっているかどうかを、自分で確認することができません。先ほど挙げた症状がある場合には前立腺肥大症を疑って、泌尿器科を受診して診察や検査を受けていただきたいと思います。そして、前立腺肥大症と診断された場合には、適切な治療を受けてください。前立腺肥大症の検査と治療については、次回に解説します。

 前立腺肥大の経過を観察する方法としては、定期的にPSA検査を受けることをお勧めします。PSAは、精液の一部となる前立腺液に含まれるたんぱく質の一種で、「前立腺特異抗原」と呼ばれるものです。前立腺がんがあると血液中からも検出されるようになるため、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられています。血液検査で調べられます。

 PSAは、前立腺がん以外にも、前立腺が肥大したり、炎症を起こしたりしているときに数値が高くなります。前立腺炎の場合は、高い数値が出たとしても、炎症が治れば基準値に戻ります。PSAの基準値は年齢によって異なりますが、前立腺の異常が疑われるのは「4.0ng/mL」が一つの目安になります。

前立腺肥大の場合には、PSAが3.0ng/mL〜4.0ng/mLあたりの数値まで徐々に上がっていく傾向があります。4.0ng/mL〜10.0ng/mLはグレーゾーンと呼ばれ、前立腺肥大症か前立腺がんが疑われます。このグレーゾーンに近いか該当する場合には、半年に1度くらいPSAを測定していくこと、仮に前立腺がんであったとしても、早期発見・治療につなげることができます。

 前立腺肥大症では排尿障害の症状が表れるものの、前立腺がんの場合は、かなり進行してからでないと排尿障害は起こってきません。ですから、定期的にPSA検査を受けておくことが大切になります。

 50代以降になると前立腺がんが増えてくるので、1年に1度のペースでPSA検査を受けても大げさではありません。ただ、1度PSA検査を受けて数値が基準値以下であれば、その後は2年に1度のペースでもいいでしょう。

 60代、70代では、前立腺がんを発症する確率がさらに高くなるので、1年に1度はPSA検査を受けて、グレーゾーンの数値であれば、数カ月ごとに経過を観察していきます。

 「前立腺肥大症が進行すると、前立腺がんになる」と思われることがありますが、これは大きな誤解です。前立腺肥大症と前立腺がんは関連しません。前立腺肥大症がなくても前立腺がんを発症することはありますし、前立腺肥大症と前立腺がんを同時に発症することもあります。

 いずれにしても、前立腺肥大症を疑う症状がある場合はきちんと泌尿器科を受診すること。繰り返しになりますが、尿トラブルがなくても、50代になったら定期的にPSA検査を受けていくことが大切です。

 なお、PSA検査は、前立腺がんの疑いで受ける場合は保険診療になります。人間ドックのオプションで選ぶ場合、数千円で受けられるほか、自治体の前立腺がん検診では無料のところもあります。

引用元:
男性の尿トラブルに深く関わる「前立腺」の実像に迫る(日経ビジネス電子版)