乳がんを患い、乳房切除手術を受けた女性の中には、外見の変化に悩む人も少なくない。がん電話相談(がん研究会、アフラック、産経新聞社の協力)にも、乳房切除や乳房再建手術について尋ねる声が寄せられている。外見の変化に伴う苦痛の緩和は「アピアランスケア」と呼ばれ、医療現場だけでなく民間企業も力を入れている。乳がんの分野で「装着式人工乳房」の普及に取り組む企業を取材した。(篠原那美)

JR中央線三鷹駅(東京都三鷹市)から徒歩約10分。マンションの一室に、装着式人工乳房の販売会社「カノアクルー」がある。同社は女性3人が立ち上げ、昨年10月にサロンを開いた。観葉植物が置かれたリビングには、落ち着いた雰囲気が漂う。


「乳がんとなり不安を抱えた女性たちがここを訪ねてきてくれる。リラックスした状態で悩みを打ち明けてもらえたら」とメンバーの一人、鈴木万紀子さん(49)が語る。

同社が取り扱う装着式人工乳房「ルアナブレスト」は国産のシリコン製。取り付ける面に粘着性があり、皮膚に張り付けて使う。ブラジャー内でもずれることはなく、専用の接着剤を使えば入浴時も装着し続けられるのが特徴だ。

新潟県にあるがん患者向けのかつらメーカーが8年前に開発し製造を始めた。患者の肌色やほくろの位置などを参考に、職人が手作業で着色するため、左右を比べても自然な仕上がりになるという。

カノアクルーが製造元に発注し、東京で販売する。

「ホームページやSNSで情報発信を始めた段階だが、その情報をもとに、乳がんの告知を受けたばかりの女性が『再建手術をするかどうか数日後に決断しなければならないが、その前に話を聞きたい』と訪ねてきてくれたこともあった」と鈴木さんは話す。


「家族や友人と温泉やジムに行きたいけれど人目が気になる」「胸のない姿を見せたら、一緒にいる人に気づかいをさせてしまうのではないか」「体のバランスが崩れて腰痛や肩こりが悪化した」…。

乳房を切除した女性たちの悩みは多岐にわたるが、アピアランスケアとしての装着式人工乳房の認知度はまだ低いのが現状だ。

「日本人女性の9人に1人が乳がんにかかる時代。乳房を切除することになっても、装着式人工乳房という選択肢があることを多くの人に知ってほしい」

同社はホームページに加え、電話でも問い合わせを受け付けている(0120・907・657)。



がん研有明病院も、アピアランスケアをはじめ、がん患者の悩みに幅広く寄り添う体制を整えている。

同病院は昨年5月、入院前から退院後の生活まで一貫した支援を行う「トータルケアセンター」を設置した。同センターの患者・家族支援部長を務める高野利実医師は「医療者も患者さんも、がんを治すことだけに関心を向けがちだが、大切なのは患者さんの人生そのもの。センターでは、そうした医療の原点に立ち返り、取り組みを進めている」と説明する。


がん治療の外見への影響は多様だ。髪などの脱毛に加え、肌の変色や、爪が黒ずんだり、はがれそうになったりすることもあるという。高野医師は「皮膚障害は個人差があり、あまり知られていないことから、患者さんのなかには『こんなことが起きるなんて』とショックを受ける人もいる」と話す。

同病院では、これまで病棟にしかなかったアピアランスケアのコーナーを、外来にも開設。かつらの展示や帽子の販売のほか、がん専門看護師が相談を受ける機会を設けている。今後も患者が自分らしく過ごせるような取り組みを展開する予定だという。




「がん電話相談」(がん研究会、アフラック、産経新聞社の協力)は毎週月〜木曜日(祝日除く)午前11時〜午後3時に受け付けます。電話は03・5531・0110、無料。相談はカウンセラーが受け付けます。相談内容を医師が検討し、産経新聞の紙面やデジタル版に匿名で掲載されることがあります。個人情報は厳守します。

引用元:
乳がん手術後の「アピアランスケア」 装着式人工乳房という選択肢(産経新聞)