豪州Queensland大学のChen Liang氏らは、女性が不妊、流産、死産を経験した場合、その後に非致死的および致死的脳卒中を起こすリスク増加と関連があるかを検討するために、日本も含む7カ国で行われた8件のコホート研究の参加者のデータをプール解析し、これらの出産関連イベントを経験したことがない女性に比べ、脳卒中のリスクが高かったと報告した。結果は2022年6月22日のBMJ誌電子版に掲載された。
脳卒中による死者と、脳卒中後に機能障害が残る患者は、男性に比べ女性が44%も多いという報告がある。現行の脳卒中予防ガイドラインは、肥満や高血圧、糖尿病などといった危険因子を標的としているが、既知の危険因子の保有率によって、男女の間の脳卒中リスクの差を説明することはできず、女性特有の危険因子の存在が予想されていた。
妊娠の合併症である妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症と、長期的な脳卒中リスクの関係を示すエビデンスは蓄積されつつあるが、不妊、流産、死産との関係については、これまで一貫した結果は得られていなかった。それらに、内分泌疾患、全身性の炎症、内皮機能不全、精神疾患、不健康な生活習慣(喫煙など)、肥満などが関与するならば、脳卒中リスクにも影響する可能性がある。
そこで著者らは、不妊、流産、死産と、初回の非致死的脳卒中と致死的脳卒中の関係を質の高い研究で明らかにしようと考え、2012年6月に設立されたInterLACE(International collaboration on a Life Course Approach to Reproductive Health and Chronic Disease Events)コンソーシアムに参加している7カ国で行われた8件の研究に参加した女性のデータをプール解析することにした。
8件のコホート研究はそれぞれ、豪州のAustralian Longitudinal Study on Women’s Health 1946〜51コホート(ALSWH-mid)、中国のChina Kadoorie Biobank、日本のJapan Nurses'Health Study(JNHS)、英国のUK MRC National Survey of Health and Development(NSHD)、オランダのUtrecht contribution to the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition cohort Netherlands(Prospect-EPIC)、米国のUS Study of Women's Health Across the Nation(SWAN)、英国のUK Biobank、スウェーデンのSwedish Women’s Lifestyle and Health Study(WLH)。
これらに参加した女性のうち、非致死的脳卒中または致死的脳卒中の有無に関する情報と、不妊症、流産、死産に関するデータ、および共変数(人種または民族、BMI、喫煙習慣、学歴、高血圧)に関する情報を調べた。各研究のベースラインは、最初の不妊症の診断、流産、死産を経験した時とした。1946年生まれの人を対象にしたバースコホート研究のNHSDコホートだけは、この研究で脳卒中の記録を開始した1982年(参加者が36歳になった時点)をベースラインとした。流産の繰り返しは3回以上の流産を経験した場合とし、死産の繰り返しは2回以上の死産を経験した場合と定義した。
8件の研究に参加していた61万8851人のデータを分析対象とした。ベースラインの年齢は32.0〜73.0歳だった。非致死的脳卒中の追跡期間は中央値で13.0年(四分位範囲12.0〜14.0年)、致死的脳卒中の追跡期間は中央値で9.4年(7.6〜13.0)だった。27万5863人から非致死的および致死的脳卒中に関する情報が入手できた。5万4716人については、非致死的脳卒中のみに関する情報が、28万8272人については致死的脳卒中のみに関する情報が得られた。
初回の非致死的脳卒中を経験していたのは9265人(2.8%)で、発症時の年齢は中央値で62.0歳(四分位範囲54.0〜70.0歳)だった。また、致死的脳卒中を経験したのは4003人(0.7%)で、発症時の年齢は中央値で71.0歳(64.0〜76.0歳)だった。
不妊に関する情報が得られたのは9万4286人で、うち1万6231人(17.2%)が不妊症歴を有していた。流産に関する情報が得られたのは55万853人で、9万1569人(16.6%)が1回以上流産を経験していた。死産に関する情報が得られたのは54万638人で、うち2万4873人(4.6%)が1回以上死産を経験していた。
不妊は、非致死的脳卒中リスクの増加に関係しており、共変数を調整したハザード比は1.14(95%信頼区間1.08-1.20)になった。脳卒中のサブタイプ別では、脳出血と分類不能な脳卒中のリスクは有意にならなかったが、脳梗塞のハザード比は1.15(1.07-1.23)になった。致死的脳卒中については、分析できなかった。
流産歴のある女性の非致死的脳卒中の調整ハザード比は1.11(1.07-1.15)で、流産の回数別に、流産歴のない女性と比較すると、流産歴1回の女性の調整ハザード比は1.07(1.04-1.10)、2回の女性では1.12(1.07-1.17)、3回以上の女性では1.35(1.27-1.44)になった。3回以上の流産を経験した女性は、脳梗塞のハザード比1.37(1.23-1.53)も脳出血のハザード比1.41(1.08-1.84)も有意なリスク増加が見られた。
また、流産歴のある女性全体の致死的脳卒中のハザード比は1.17(1.07-1.29)で、流産の回数別では、流産歴1回の女性は1.08(0.96-1.21)、2回の女性は1.26(1.07-1.49)、3回以上の女性では1.82(1.58-2.10)となった。3回以上の流産を経験した女性は、脳梗塞のハザード比1.83(1.39-2.41)、脳出血のハザード比1.84(1.39-2.44)だった。
死産歴のある女性の非致死的脳卒中のハザード比は1.31(1.10-1.57)で、死産1回を経験した女性では1.32(1.15-1.51)、死産を2回以上繰り返した女性は1.29(0.84-1.98)だった。死産を2回以上繰り返した女性の脳梗塞のハザード比は1.77(1.54-2.02)だった。
死産歴のある女性の致死的脳卒中のハザード比は1.07(1.00-1.13)で、死産1回を経験した女性では0.97(0.91-1.03)、2回以上の女性では1.26(1.15-1.39)だった。死産が2回以上の女性は脳出血のハザード比が1.44(1.35-1.53)だった。
これらの結果から著者らは、不妊、繰り返す流産や死産の経験は、女性に特有の脳卒中の危険因子であることが示唆されたと結論している。今回の知見は、このような危険因子を有する女性における脳卒中モニタリングの改良に活用でき、脳卒中予防に貢献する可能性があると指摘している。この研究はAustralian National Health and Medical Research Councilの支援を受けている。
原題は「Infertility, recurrent pregnancy loss, and risk of stroke: pooled analysis of individual patient data of 618851 women」、概要はBMJ誌のウェブサイトで閲覧できる。
引用元:
不妊、流産、死産の経験は脳卒中の危険因子 7カ国8件のコホート研究のプール解析の結果(日経メディカル)