将来の地域、命を守る人を育てたい――。和歌山県有田市立病院産婦人科部長の平野開士(はるひと)さん(49)が自ら奨学金を負担し、助産師を育成する「有田圏域10年プロジェクト」を始めた。常勤医の不在で、2020年から分娩(ぶんべん)の受け入れを休止していた病院に着任し、22年2月に再開した矢先で打ち出した取り組み。そこには「受けた恩」を次代につながなければ、という強い思いがあった。

奨学金は助産学のコースがある国公立の4年制大学の入学金と授業料全額で、返済は不要とする。平野さんによると、1人当たり4年間計約240万円になるといい、全て貯金を取り崩すなどして自費で賄うという。対象は有田市、湯浅町、広川町、有田川町の1市3町に住む高校3年生以上で、浪人生や社会人も応募できる。助産師になるには看護師の資格も必要だが、助産学のコースを設けている4年制大学では、卒業時に同時取得が目指せるという。

 市の要請を受け、21年12月に病院に着任した平野さんは、取り組みについて「地域の未来を考えると、お産を続けるには、次世代の助産師を育てる必要があるとの思いを強くした」と説明。「命に関わろうとの思いの強い人に、周産期医療を守ってほしい」と呼び掛けている。

 平野さんは島根県浜田市出身。研修医1年目だった2000年代初め、古里が有田のように分娩存続の危機にあった時、「経験不足で力になれなかった」という苦い経験があった。危機は1人の産婦人科医が地域にやってきて医療体制を再構築し、周囲の関係者を奮い立たせることで脱したという。当時は面識もなかったその産婦人科医が古里を助けてくれたことに恩義を感じ、「どこかで同じような危機に遭遇した時、恩を返したい」と一人心に誓っていたことが取り組みの背景という。

 奨学金の支給にあたって、地元に帰ることを条件とせず、他地域で就職したり、別の職種に就いたりしても、返済を求めない。「戻ってきてほしいが、未来を縛りたくはない」との理由で、募集要項には「大学で学んだ知識と経験を活かし、就職された地域の周産期医療を産婦人科医師とともに守ってください」と記した。

 奨学生は23、24年度入学が1人ずつ、25年度入学以降は各2人とし、10年間で計18人を募集する予定だ。初年度の応募の締め切りは、5月31日。要項と願書は市立病院や市役所、3町の各役場に置いている。問い合わせは平日正午〜午後1時、または同4〜5時に同病院(0737・82・2151)を通じて平野さんへ。【姜弘修】

引用元:
「地域に助産師を」 産科部長が自費で奨学金 和歌山・有田(毎日新聞)