不妊治療の公的保険適用が4月から拡大される。金銭的負担を減らす動きが進む一方、周囲の理解不足や仕事との両立などで、精神的に苦しむ人も多い。心のケアへの対応が急務となる中、生殖医療に詳しい医療従事者やカウンセラーなどの相談員は少なく、国も養成を始めた。現場は「あなたは一人じゃない。不安を抱え込まないで」と訴える。
「友人の妊娠・出産報告がつらい」「生理のたびに深い喪失感に襲われる」。不妊治療の患者らを対象にした福岡市の「カウンセリングルームwith(ウィズ)」には、切実な声が寄せられる。公認心理師で代表の堀田敬子さん(57)も約10年間の治療経験を持つ。
「カウンセリングルームwith」代表の堀田敬子さん(2月、福岡市)=共同
30歳から人工授精や体外受精に取り組んだ。当初は仕事もあり心に余裕があったが、流産などを機に退職すると、次第に「挫折感や社会からの疎外感で、みじめな気持ちでいっぱいになった」。生活が変わらない夫にいら立ち「つらいのは自分だけ」と心を閉ざした。
子どもを授かることはかなわず、「第二の人生」にカウンセラーの仕事を選んだ。インターネット上に治療に関する情報があふれる裏で、悩みを対面で相談できる場は少ない。2011年に開業し、面談やワークショップを開いている。
国が21年、国家公務員を対象に行った調査では、回答した約4万7千人のうち、不妊治療をした人、検討した人は計約16%。このうち、仕事との両立が「かなり難しい」「無理」との回答は合計で7割を超えた。理由は通院の難しさなどのほか、3割超の人が「精神面の負担が大きい」ことを挙げた。
独協医科大埼玉医療センターの杉本公平医師(53)は「多くの人は努力をすれば報われる経験をしているが、そうとは限らないのが不妊治療の難しさ」と強調する。
長年、患者の心のケアに力を入れている。多くのお金や時間を費やし、キャリアを犠牲にしても結果が出ないことはある。患者には「努力は決して無意味じゃない。治療に向き合う中で人格的にも成長する」と伝える。
同センターには生殖医療専門の臨床心理士が常駐。心のケアが必要と判断すれば情報を共有し、自費診療でカウンセリングも行う。日本では心の不調を相談する文化が浸透していないといい、「まだ専門心理士などがいる病院は少ない。各県に一つは拠点病院が整備されると理想的」と話す。
そうした声を受け、国は昨年10月から治療内容や患者の悩みを学ぶ「不妊症・不育症ピアサポーター」の養成講座や、医療従事者らへの研修を開始。堀田さんは「周囲が治療について知っている、理解しようとしてくれる姿勢に患者は救われる」と期待した。〔共同〕
引用元:
不妊治療、心のケア急務 相談員養成など国も対策(日本経済新聞)