−胎児心臓超音波スクリーニングへの臨床応用に期待−
理化学研究所(理研)革新知能統合研究センター(AIP)目的指向基盤技術研究グループがん探索医療研究チームの小松正明副チームリーダー、浜本隆二チームリーダー、理研AIP-富士通連携センター[1]の酒井彬客員研究員、昭和大学医学部産婦人科学講座の松岡隆准教授、小松玲奈助教らの共同研究グループは、超音波検査に人工知能(AI)技術を適用する上で、AIの判定根拠を可視化して検査者の診断を支援する新技術を開発しました。
本研究成果は、胎児心臓超音波スクリーニング[2]におけるAIを活用した超音波画像診断支援技術の臨床応用に貢献すると期待できます。
今回、共同研究グループは、深層学習(ディープラーニング)[3]を用いた新しい説明可能な表現「グラフチャート図」を開発しました。この技術により、超音波検査において異常所見の有無を判定する際に、判定の根拠となる診断部位の検出結果を従来手法よりも明確に提示することが可能になりました。また、実際に検査者がグラフチャート図を参考にすることで、胎児心臓超音波スクリーニング精度が向上することを確認しました。
本研究は、科学雑誌『Biomedicines』オンライン版(2月25日付)に掲載されました。
背景
超音波検査は簡便性・非侵襲性・リアルタイム性に優れており、幅広い医学領域で使用されています。一方で、超音波検査ではプローブを手動走査して画像を取得するため、検査者間での診断技術の差異が大きいこと、また超音波画像は音響陰影(影)の影響を受けやすく、画質劣化および診断精度の低下につながることなど、特有の課題があります。よって、近年の人工知能(AI)の技術革新およびさまざまな医療分野への導入状況を踏まえて、これらの課題解決に向けたAIを活用した超音波画像診断支援技術の臨床応用が期待されています注1)。
共同研究グループは、2018年度より胎児心臓超音波スクリーニング診断支援に向けたAI基盤技術の研究開発に取り組んできました注2-3)。しかし、今後の臨床応用へ向けた課題の一つとして、複雑なディープニューラルネットワーク構造を持つAIの判定根拠について十分な説明性が得られないこと(ブラックボックス問題[4])が挙げられます。臨床現場においてAI搭載医療機器を利用する医療従事者だけでなく、診断結果をもとにインフォームドコンセントを受ける患者の信頼を得るためにも、よりAIの説明可能性を向上させることが求められていました。
注1)Komatsu, M. et al. Towards clinical application of artificial intelligence in ultrasound imaging. Biomedicines 9, 720 (2021).
注2)2018年9月18日プレスリリース「AIを用いた胎児心臓超音波スクリーニング」
注3)2019年7月26日プレスリリース「AIを用いた超音波検査における影の自動検出」
研究手法と成果
超音波検査動画の解析手法として、共同研究グループが以前提案した、動画情報を二次元データに変換した「部位検出結果のバーコード表示」があります注4)。部位検出結果バーコード表示は、検査対象の正常な部位構造について教師あり学習[5]をさせ、取得した動画についてフレームごとに正常な部位構造の検出状況を一覧表示して保存したデータです。異常所見がある場合には、正常な部位構造が検出されず、正常からの逸脱によって異常と判定できます。また、部位構造ごとに位置・大きさ・検出の有無などの有効な情報を含んでいるため、動画全体に対して深層学習を適用するよりも説明可能性が高くなります。一方で、超音波検査動画を取得する際に起こりえるプローブの手振れや反復走査、また検査対象の動き(胎動など)には対応できないという弱点がありました。
そこで、共同研究グループはこれらの弱点を克服しつつ、さらに説明可能性を向上させるための新たなアプローチとして、代表的な教師なし学習[5]であるオートエンコーダ[6]を用いて、上記バーコードから得られた分散表現[7]を解析することで、新しい説明可能な表現「グラフチャート図」を開発しました(図1)。
カーネル[8]を検査時間経過に添ってバーコード上をスライドさせ、部位構造の検出情報を抽出してオートエンコーダに入力します。検出情報は二次元データに圧縮され、その分散表現の軌跡をプロットすることでグラフチャート図を作成します。グラフチャート図を作成する際には、view-proxy loss[9]という新しい指標を導入しています。この指標を最小限に抑えて最適化することで、オートエンコーダの学習を安定化させ、分散表現の軌跡が絡み合うことのないように工夫しました。また、グラフチャート図の内面積を用いて異常度スコア[10]を算出します(図1)。なお、上述のプローブの手振れや反復走査、検査対象の動きについては、グラフチャート図では同一の軌跡をたどるため、その影響を最小化できます。
次に、昭和大学病院産婦人科の胎児心臓超音波スクリーニングにおいて取得された、正常胎児および代表的な先天性心疾患であるファロー四徴症[11]の超音波検査動画にグラフチャート図を適用したところ、疾患の特徴を捉えていることが確認できました(図2)。
さらに、オートエンコーダによる情報の圧縮過程がブラックボックスとなってしまうため、部分構造の情報を類似したグループ(心臓、大血管など)ごとに段階的に圧縮することで説明可能性を維持したまま、分散表現を獲得する手法(階層型オートエンコーダ)も考案しました。この階層型グラフチャート図により、異常判定を行う際にどのグループが判定根拠に寄与したのかを、検査者により明確に提示できることが期待されます(図3)。
実際に、検査者がグラフチャート図および異常度スコアを参考にすることで、胎児心臓超音波スクリーニングの精度向上が見られるのかを検証しました。今回、昭和大学病院産婦人科の専門医8名、一般産婦人科医10名、後期研修医9名の計27名の協力が得られました。検査者は、ランダムな胎児心臓超音波スクリーニング動画40動画について正常・異常判定し、また判定を下す際の確信度(検査者自身が判定に対してどの程度確信を持っているかを示す値)を5段階評価で記載しました。
検査者が単独で読影した場合と、グラフチャート図および異常度スコアを併用して読影した場合とで比較したところ、受信者動作特性(ROC)曲線[12]の曲線下面積(AUC)[13]の算術平均において、専門医で0.966から0.975、一般医で0.829から0.890、後期研修医で0.616から0.748へと、全ての検査者レベルでスクリーニング精度の向上が見られました(図4)。
これは、実際に検査者が深層学習に基づく説明可能な表現を用いて胎児心臓超音波スクリーニング精度を向上させた世界初の報告であり、検査者の診断能力を補強する説明可能AIの可能性を示しています。
今後の期待
今後は、産婦人科をはじめ幅広い医学領域において、さらに多くのAIを活用した超音波画像診断支援技術が導入されると予想されます。しかし、検査者や施設間、超音波診断装置の機種間における画像精度管理など、臨床応用に向けて解決すべき課題を一つずつ克服していく必要があります。
本技術は、臨床現場で医療従事者および患者がAI搭載医療機器をより信頼して利用できるように、AIの判定根拠に対する説明可能性の向上に貢献すると期待できます。共同研究グループは、これまで構築してきた基盤技術と統合することで、AIを活用した胎児心臓超音波スクリーニング診断支援技術の臨床応用の実現を目指します。
引用元:
説明可能AIを用いた超音波画像診断支援(理化学研究所)