厚生労働省は出産や育児などに関する多数の啓発を行っており、その中には食事についての資料もあります。その一つが『これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと』というパンフレットです。

この中で、同省は「お魚はからだに良いもの/でも妊娠中はちょっと注意が必要」として注意喚起をしています。ただし、この注意喚起は一部の魚に含まれる水銀についてのもの。そしてその食べ方の例として、“刺身”が紹介されています。

医師から生魚食を控えるように指導されたという妊婦さんに、実際にこのパンフレットを読んでもらうと「刺身は食べていいのか、ダメなのか、混乱する」という意見でした。

同省に話を聞きました。担当者によれば、同省として「妊婦の生魚食」について個別の注意喚起はしておらず「母子手帳で示している通り」ということでした。

あわせて、日本産科婦人科学会を取材しました。同学会の広報担当者は「母子手帳にある通りで、本会として特段の見解はありません」とします。

ただし、母子手帳では食中毒についての注意喚起も行っており、両者とも食中毒には注意が必要であるとしました。
「母子手帳にある通り」とは
厚労省と産婦人科学会が挙げた母子手帳。ここには「妊娠中の食中毒予防について」として、以下のように記載されています。

「妊娠中は、免疫機能が低下して、食中毒など食べ物が原因の病気にかかりやすくなっています」
「妊婦にとって特に注意が必要な病原体として、リステリア菌とトキソプラズマ原虫が挙げられます。また、お母さんに症状が無くても、赤ちゃんに食品中の病原体の影響が起きることがあります」
「感染を防ぐため、妊娠中は生ハムや加熱殺菌していないナチュラルチーズなどをなるべく避け、食品を十分に加熱して食べましょう」
「食中毒予防のために、日頃から食品を十分に洗浄し、加熱するなど、その取り扱いに注意しましょう」

なお、厚労省は『食べ物について知っておいてほしいこと』という別のパンフレットの中で、リステリア菌食中毒対策として、生ハムやナチュラルチーズに加えてスモークサーモンを「避けた方が良い食べ物」として挙げています。

このように、厚労省・産婦人科学会として生魚食自体は否定しておらず、全般的な食中毒と、水銀やリステリア菌などいくつかの事項について、注意喚起をしていることがわかります。
「食べない方が安全」の理由
厚労省や専門学会として明確な推奨をしていないことで、医師により指導の内容が異なる状況が発生していると言えそうです。

産婦人科専門医の太田寛さんを取材しました。太田さんは「基本的に『妊娠中は生魚は食べない方が安全』です」とします。

「例えば、魚介類には腸炎ビブリオという食中毒菌がいます。また、カキなどにはノロウイルス、サバなどにはアニサキスなど、ウイルスや寄生虫がいて、それらによる食中毒も起こり得ます。一方で、これらの食中毒のリスクは中心部までしっかりと加熱すれば避けられるもの。そのため、生魚は食べない方が安全という考え方になります」

これらの病原体による食中毒については、直接、赤ちゃんに影響するものではありません。ただし、妊娠中に食中毒になると、下痢や嘔吐により全身の状態が悪くなることも考えられます。また、赤ちゃんに影響のない薬や検査が限られるなど、治療も難しくなる、と太田さん。

「多くの妊婦さんやそのパートナーが実感していることだと思いますが、妊娠中はやはり赤ちゃんの健やかな成長を望んで、さまざまなことが心配になるものです。そんな中で、お母さんが体調を崩してしまうと『悪い方に悪い方に』考えてしまうということもあるのではないでしょうか」

こうしたことを踏まえて、太田さんとしては「生魚は食べない方が安全」という考え方をとっていると言います。しかし、生魚を食べたからといって、ただちに大きなリスクになるというわけではないので、より安全を求める方に考えるか、小さなリスクは問題ないと考えるかによって、推奨が変わるということです。

結果として「お刺身やお寿司が好きなお母さんたちはつらいと思いますが、食中毒についての正しい知識を持って、リスクについてしっかり判断してほしいと思います」(太田さん)ということでした。

引用元:
妊婦の生魚食、医師によって注意が違うけれど…厚労省・専門学会の見解は 専門医が“押さえてほしいこと”(withnews)