iPS細胞などの技術を使って、受精から5〜6日の段階の「受精卵(胚)」をヒトの細胞からつくり、子宮の内膜に入り込む「着床」の始まりを試験管内で再現することに欧州の研究グループが成功した。不妊の原因解明や治療の開発につながる画期的な成果だが、命の始まりを人工的につくり出す技術でもあり、倫理的な議論を呼びそうだ。

 科学誌ネイチャーオンライン版に3日発表する(https://www.nature.com/articles/s41586-021-04267-8別ウインドウで開きます)。

 オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所などのグループは、さまざまな細胞に変化することができるES細胞(胚(はい)性幹細胞)、iPS細胞のそれぞれから受精から5〜6日目の「胚盤胞(はいばんほう)」によく似たものをつくった。さらにヒトの子宮内膜の組織からつくった子宮内膜にそっくりなミニ臓器(オルガノイド)を使い、内膜に付着することを確認した。

 不妊治療の体外受精では、胚盤胞になるまで培養し、子宮に移植する。

 グループを率いるニコラス・リブロンさんは「今回の実験では、着床の第一歩である子宮内膜への付着を、驚くほど信頼性の高い方法でモデル化することができた」と説明する。着床は、胚が子宮内膜に付いた後、数日かけて内膜に入り込んで完了する。「着床は非常に複雑なプロセスで、現時点では子宮内膜にくっつくという最初のステップしかモデル化できていない」

 ヒトの受精卵の研究は、命の誕生につながるため、受精後14日以降は培養してはいけないという国際的なルールがあり、日本も採用している。今回の研究は受精卵そのものではないが、受精後13日に相当する時点で培養を中止したという。

 人工的に胚盤胞をつくる技術は今年3月、海外の二つのグループがそれぞれ成功した、とネイチャーで発表。ただ、胚盤胞よりもう少し日数のたった胚に近いという指摘がされるなど、発展途上の技術とも見られていた。今回はさらに別の技術を開発し、胚盤胞をつくることに成功した。


引用元:
「着床」をiPS細胞使って再現 欧州グループ、不妊の原因解明へ(朝日新聞デジタル)