金沢大学の後藤典子教授らのチームは乳がんができる際に特定の分子が関わっていることを突き止めた。がん増殖に必要な環境作りをこの分子が担っていた。分子を作らないマウスを使って実験すると乳がんがほぼできなかった。乳がん検診で早期病変を発見した際、分子の存在などをもとに悪化するかどうかを判断できる可能性がある。手術の必要性を見極め、患者の負担軽減につながると期待する。

マウスの乳腺などを観察し乳がん細胞が置かれている環境を詳しく調べた。乳腺の一部の細胞では細胞膜に「FRS2β」と呼ぶ分子が存在していることを見つけた。たんぱく質の一種だ。乳がんを自然に発症する実験用マウスで調べると、この分子が特定のたんぱく質を活性化させ、それにより炎症性物質が増えていることが分かった。

炎症性物質は免疫細胞や「間質細胞」と呼ぶ細胞を引き寄せ、がん細胞が育ちやすい環境ができる。この環境に乳がんへ成長するもととなる細胞を移植すると腫瘍ができることを確かめた。FRS2βがない乳腺に移植しても腫瘍はほとんどできなかった。

後藤教授は「FRS2βがたんぱく質をどれだけ活性化させているか。たんぱく質が炎症性物質をどれだけ増やしているか。これらが分かれば、早期に見つかった病変が悪化するかどうかを見極められる可能性がある」と話す。一連の変化を防ぐ食品などが見つかれば、予防に役立つとみる。

乳がんは女性がかかるがんの中で最も多く、9人に1人がかかる。年間約9万人が発症し、約1万5000人が死亡する。ただ早期に治療を始めれば、生存率は比較的高い。40歳以上の女性にはマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)による検診が推奨される。遺伝性の乳がんを除き、多くの場合で発症の詳しい仕組みは不明だ。

乳がんのうち「DCIS(非浸潤性乳管がん)」と呼ばれる最も早期の病変は、悪化しない場合もあるといわれている。死亡時に乳がんと診断されていなかった人のうち、DCISだった例も一定数見つかっている。現在はDCISが見つかった場合、切除手術をするのが一般的だ。放置すると、通常の乳がんに進行する場合があるからだ。

最近はDCISが見つかる例も増えているが、「DCISのうち腫瘍になる例は比較的少ない」と後藤教授は話す。手術すれば体に負担がかかり、乳房の形が変わる場合もある。早期病変が見つかった段階で悪化するかどうかを見極める方法が確立できれば、患者の生活の質(QOL)の維持につながる。

研究チームは今後、人の早期病変の標本を分析し、今回の実験と同様の現象が起きているか確かめる。


引用元:
乳がんの発症環境作る分子特定 金沢大など(日本経済新聞)