「健診とは別の病院での出産は不安」「移動中の車で産まれたらどうしよう」――。釜石市健康推進課には現在、妊婦から不安の声が多く寄せられている。洞口祐子主任保健師(62)は「何度も電話相談する人もおり、悩みを抱える妊婦は多い」と話す。


 釜石、大槌の2市町からなる「釜石医療圏」で唯一お産ができた県立釜石病院では今月、 分娩ぶんべん の取り扱いが休止となった。長らく常勤の産婦人科医がおらず、他病院の医師が1週間交代で応援に入っていたが、働き方改革による勤務態勢の見直しで派遣が難しくなったのが主な理由だ。

 これに伴い、同医療圏の妊婦は、主に車で約40分かかる県立大船渡病院で出産することになった。2市町は妊産婦の通院や入院にかかる交通費や宿泊費を独自に補助する制度を設け、妊婦を支援するが、6月に長男を出産した花巻市の団体職員佐々木恵さん(35)は「金銭面で補助があっても、移動中におなかの赤ちゃんの様子が急変する場合もある。病院にすぐに行けないのは不安」と語る。



 現在、県内で分娩を取り扱う医療機関は23施設。2008年度には45施設あったが、開業医の高齢化などで半数近くに減った。県内9医療圏のうち、分娩が可能な施設は盛岡で10施設ある一方、二戸、久慈、気仙、胆江で各1施設と偏りも目立っている。

 この背景にあるのが、医師の不足だ。厚生労働省によると、産婦人科医も含めた県内の人口10万人あたりの医療施設に従事する医師数は18年時点で201・7人と全国ワースト5位だった。

 県は、県立病院などで一定期間働けば、返済が全額免除される医学生向けの奨学金制度を導入するほか、医師少数県の知事と「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」を設立し、医師不足解消を国に訴えてきたが、問題解決には至っていない。「医師が減れば労働環境は過酷となり、医師がますます減る。負の悪循環だ」と県の担当者は頭を悩ませる。



 しかし、分娩施設や医師の不足は一朝一夕に解決できる問題ではない。この中で、少子化を食い止める方策の一つとして注目されているのが、産後の母親に育児のサポートを行う「産後ケア事業」だ。

 県立釜石病院は今月から母親の休息や乳児のもく浴などができるデイサービス型の産後ケア事業を始めた。2月に県立大船渡病院で長男を出産した釜石市の公務員大場景子さん(41)は「第1子なので悩みや不安も多い。両親も離れて暮らしているので気軽に相談できてありがたい」と話す。

 19年12月に母子保健法が一部改正され、産後ケア事業の実施が市町村の「努力義務」と定められた。県内でも盛岡、一関、北上市などの市部を中心に導入が進んでいる。

 自治体の委託で同事業を手がけるNPO法人「まんまるママいわて」(花巻市)の佐藤美代子代表理事(43)は「産後ケア事業は自治体によって予算や内容にばらつきがある。子どもへの支援に焦点が当たりがちだが、国は母親が『また産みたい』と思えるような支援体制を整えるべきだ」と訴える。

(この連載は、中根圭一、押田健太、宍戸将樹、有村瑞希、黒山幹太、広瀬航太郎、坂本俊太郎が担当しました)

引用元:
医師不足 お産にも影響 分娩 産後ケア 体制整備を(讀賣新聞)