千葉県柏市で新型コロナウイルスに感染した妊婦の搬送先が見つからず、自宅で早産し、新生児が死亡した。コロナの感染拡大で、限りある医療資源をどのように生かしていくかが議論される中、もともと産科は「お産難民」という言葉に代表されるように、長く慢性的な医師不足から“崩壊状態”にあった。そこへ、コロナ感染や感染疑いの妊婦の受け入れという新たな課題が重なり、事態はさらに深刻になっている。今回の問題の背景について、周産期医療提供体制に詳しい北里大学病院(相模原市南区)周産母子成育医療センター長の海野信也医師に聞いた。
現場から受け入れ能力の不足を心配する声も
「産科医療崩壊」は2003〜08年ごろに大きな社会問題となった。04年度にスタートした医師の臨床研修の必修化によって、それまで国家試験合格後にすぐ始まっていた専門診療科の研修が2年先送りされることになった。つまり、2年間は新規の医師が現場に来なくなったのだ。その時点ですでに不足状態だった産婦人科にとっては大きな打撃になった。さらに、同年起きた大野病院事件(※1)などもあり、産科は他科と比べて訴訟リスクが高いというイメージから志望する医師が減少した。その後、関係者の努力で産婦人科医数は少しずつ増加してきているが、日本産婦人科医会の調査によると、18年の1カ月平均宿直回数は5.6回に上るなど、今なお過酷な労働環境におかれ、産婦人科医師不足は継続していることがうかがわれる。
こうした背景の中、コロナ感染拡大後の周産期医療体制はどうなっているのだろうか。医療提供体制は都道府県ごとに策定され、現在は第7次医療計画(18〜23年度)の半ばにある。次の医療計画では新興感染症対策を盛り込むことになっており、厚生労働省は20年度にコロナによる医療提供体制への影響についての調査研究を行った。海野さんらは研究分担者として昨年12月、全国の総合周産期母子医療センター108施設と地域周産期母子医療センター298施設を対象に、調査を実施した。それによると、当時は「コロナ陽性」「疑い」「濃厚接触者」に該当した妊婦の受け入れに重大な問題は生じていなかったものの、現場からは感染者が増加した場合、受け入れ能力不足を心配する声が上がっていたという。
「新型コロナへの対応は、保健所が大きな役割を担うため、感染症法の下で体制を整備する必要があり、通常の周産期救急とは異なる仕組みを各県で苦労して作ってきていました。このため、『コロナ+産科救急』の状況が増えたとき、普段通り対応できるかどうか懸念を持っていたのは事実です。その意味で(柏市の問題は)本当に残念でした。今回の事態がなぜ起きてしまったのかを確認して、自分たちの体制も見直す必要があると感じました」(海野さん)
パンデミッククラスの感染症対策は十分とはいえない状態だった
今回の問題は、どこに課題があったと考えられるのか。調査で、都道府県のコロナに関する産科医療提供体制の整備状況について尋ねたところ、回答した「総合」47施設、「地域」102施設のうち、3割以上の施設が「産科症例の受け入れ体制が整備されていない」と答えた。理由は「受け入れ施設は決まっているが、足りないと考えている」が多く、一応の体制はできていても、受け入れ能力には限界があることを指摘するものだった。
引用元:
コロナ禍の周産期医療体制 専門家に聞く現状と課題(毎日新聞)