閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者において、術後内分泌療法5年投与後にアロマターゼ阻害薬(AI)の追加投与はいくつかの臨床試験で有用であることが示されているが、至適な投与期間は明らかでなく、長期投与による骨折リスクの上昇が懸念される。オーストリア・Medical University of ViennaのMichael Gnant氏らは、5年間の術後内分泌療法を受けたホルモン受容体陽性乳がん患者に対するAIの追加投与について、投与期間を2年と5年に分け、有効性および安全性を比較検討した第V相ランダム化比較試験ABCSG-16/SALSAの長期成績をN Engl J Med(2021; 385: 395-405)に発表した。
有効性の解析対象は短期群1,603例、長期群1,605例

 同試験の対象は@閉経後かつ80歳以下A早期(病期T〜V期)B浸潤性ホルモン受容体陽性−の再発が認められない乳がんで、5年間の術後内分泌療法を終えた患者。追加治療として、アナストロゾール1mg/日を2年間投与する群(短期群)または5年間投与する群(長期群)に1:1でランダムに割り付け、予後を検証した。  

 主要評価項目は無病生存(DFS、再発または死亡)。副次評価項目は全生存(OS)、対側乳がん発症/二次原発がん発症/最初の骨折までの期間とした。2004年2月〜10年6月に3,484例を登録し、2年以内に再発した患者など262例を除外、有効性の解析対象は短期群1,603例、長期群1,605例だった。  

 短期群と長期群の主な患者背景は、年齢中央値がともに64歳、T1がそれぞれ73.1%、72.5%、T2が24.8%、25.2%、T3がともに1.8%、N0が66・4%、67.4%、N1が31.4%、30.2%、N2が1.7%、2.1%、G1が14.3%、15.0%、G2が64.3%、63.6%、G3が18.5%、19.5%、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性は78.7%、76.7%、外科手術は乳房温存術が79.3%、81.4%、乳房切除術が20.5%、18.1%、最初の5年間の内分泌療法の内訳はAIが7.3%、7.4%、タモキシフェンが50.9%、51.0%、両方が41.8%、41.6%、化学療法歴はアントラサイクリン系が14.3%、13.6%、タキサン系が5.2%、5.4%などであった。
中央値118カ月で有効性に差がなく、骨折リスクは短期群で低い  

 今回発表されたのは、追跡期間中央値118.0カ月(四分位範囲97.8〜121.1カ月)の追跡結果で、10年時のDFSは、長期群の73.9%に対し短期群では73.6%〔ハザード比(HR)は0.99(95%CI 0.85〜1.15、P=0.90)〕と有意差はなかった(図1)。この結果は、潜在的な交絡危険因子を調整後も同様であった(同1.00、0.86〜1.16)。

また、10年時のOSも長期群87.3%、短期群87.5%と差はなく(同1.02、0.83〜1.25、図2)、対側乳がんリスク(同1.15、0.75〜1.77)および二次原発がんリスク(同1.06、0.81〜1.38)にも差はなかった。

一方、5年時の骨折リスクは長期群の6.3%に対し、短期群では4.7%と低く(HR 1.35、95% CI 1.00〜1.84、図3)、この差は骨標的治療を行っていたにもかかわらず発生していた。

その他の重篤な副作用は、短期群で26.5%、長期群で40.2%に少なくとも1回発生し、アナストロゾールに関連する重篤なものはそれぞれ2.3%、4.0%に発生した。また、頻度が高かったものとして、変形性関節症(短期群:1.7%、長期群:4.3%)が挙げられた。  

 アドヒアランスについては、最初の2年以内に両群とも約20%が、5年時までに長期群の33%がアナストロゾールを中止していたが、服薬を遵守したサブグループにおける有効性の結果はintention-to-treat(ITT)集団の結果と同様の傾向を示した。有効性の各項目のHRは、DFSが0.91(95%CI 0.76〜1.09)、OSが0.92(同0.72〜1.16)、対側乳がんが0.98(同0.60〜1.60)、二次原発乳がんが1.20(0.89〜1.63)だった。  

 以上の結果を踏まえ、Gnant氏らは「5年間の術後内分泌療法を受けた閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者において、AIの追加投与を2年間に限定することにより、ほとんどの患者で毒性リスクへの曝露期間を短縮でき、かつ同薬の効果を最大限に得られるものと考えられる」とまとめている。

引用元:
閉経後AI追加は2年 vs. 5年で有効性差なし(時事メディカル)