中絶の際、子宮内から器具でかき出す「搔爬そうは法」での手術が日本では今も行われ、世界保健機関(WHO)が「時代遅れ」と指摘している。「セーフアボーション」と呼ばれる安全な人工妊娠中絶・流産を求める声の高まりを受け、厚生労働省は「吸引法」を周知するよう産婦人科医の団体や学会に通知した。国内で認められていない中絶薬についても、承認申請への動きが出ている。(奥野斐)
人工妊娠中絶 母体保護法は妊娠22週未満で、身体的、経済的理由や暴行、脅迫によって妊娠した場合に都道府県医師会の指定医による中絶を認めている。初期(12週未満)の手術は搔爬法や吸引法で行われているが、妊娠12週以降は人工的に陣痛を起こす方法で死産届の提出も必要。2020年の中絶数は14万5340件。

◆今なお続く「時代遅れ」の手術
 「搔爬法以外、選ぶ余地がなく、医師に説明を求めにくい雰囲気があった。情報と選択肢がほしい」。不妊治療で2回の流産を経験した都内の女性団体職員(43)は振り返る。
 搔爬法は、子宮の内容物を金属製の器具でかき出す中絶手術。このほか、電動や手動の器械で吸い出す吸引法が行われている。「手動真空吸引法」の器具は2015年に認可されたが、現在の普及率の正確なデータはない。
手動真空吸引法で使われる器具。使い捨てで真空にした吸引器につなげたプラスチック製のカテーテルで吸い取る
手動真空吸引法で使われる器具。使い捨てで真空にした吸引器につなげたプラスチック製のカテーテルで吸い取る

 WHOは12年発表のガイドラインで、搔爬法は「時代遅れの外科的中絶方法」とし、吸引法か中絶薬に切り替えるべきだと指摘。搔爬法では子宮内膜の損傷や子宮穿孔せんこうなどの合併症の頻度が吸引法に比べ2〜3倍高いとしている。セーフアボーションの情報発信をしてきた産婦人科医の遠見才希子えんみさきこさん(37)によると、国際的に搔爬法は標準的でなく、米英ではほとんど行われていないという。
◆急激な変更には慎重な意見も
 2日付の厚労省の通知では、WHOガイドラインの抜粋を添付し「国際的な動向を踏まえて電動式吸引法と手動式吸引法の周知」を求めた。遠見さんは「安全な中絶へのアクセスは女性の権利。通知を機に、より安全な方法に切り替わるよう徹底してほしい」と期待する。
 通知について、日本産科婦人科学会の木村正・理事長(大阪大教授)は「(吸引法は)世界の潮流であり、周知には取り組んでいきたい」と話す。
 一方で、日本の中絶手術の合併症発生率は低いとして「安全性は確保されている」と説明。「中絶は外科的手術。長年、搔爬法で行ってきた医師が急に方法を変えることは、慣れておらず、かえって安全性が劣る場合も起こり得る」と急激な変更には慎重な姿勢だ。
◆中絶薬は世界約70カ国・地域が承認
 WHOが勧めるもう一つの方法、中絶薬は世界約70の国・地域で承認されている。国内承認に向けた動きもあり、英国の製薬会社「ラインファーマ」が現在、外国人と日本人の服用時の血中濃度を比較する治験を進めており、終了次第、承認申請する予定だ。

 流産も中絶と基本的に同じ処置を受ける。不妊治療の経験を公表し、国会で関連の質問をしてきた立憲民主党の塩村文夏あやか参院議員は「不妊治療の末に流産した女性にとって、子宮内をかき出される手術は精神的な負担も大きい。女性の体とメンタルヘルスを守るため中絶薬という選択肢は必要」と訴える。

引用元:
より安全な中絶・流産広まるか 世界の潮流は「吸引法」 厚労省、学会に周知するよう通知(東京新聞)