【女性の不妊治療で何が行われているのか】#10

みなさんは「プレコンセプションケア」という言葉をご存じでしょうか。欧米から広まり、現在は日本でもその重要性が唱えられてきています。プレコンセプションケアとは「妊娠する前から、元気な赤ちゃんを授かるために自分の生活や健康を見直していきましょう」という考え方です。

 「喫煙をやめる」、「過度な飲酒を控える」、「健康的な体重を維持する」といったことが妊娠を考える上で大事だということは容易に想像できると思います。しかし、実はそれだけでは足りていないのです。

 たとえば、ホウレンソウなどの野菜に多く含まれている葉酸は、神経管閉塞異常という赤ちゃんの病気の発症予防に効果があるとされています。欧米では小麦粉に葉酸を混ぜて販売するなど、食品に添加することで神経管閉鎖異常児の発症を減少させることに成功しています。しかし日本では増加傾向にあり、その数は実に米国の8倍にも及んでいるのです。

 食事からのみで葉酸を必要量摂取することはなかなか難しく、厚生労働省も通常の食事からの摂取に加え、栄養補助食品いわゆるサプリメントから1日400μgの摂取を推奨しています。バランスの良い食事をすることはもちろん大切ですが、サプリメントを上手に活用することも妊娠前から必要なのです。

■不妊治療にもサプリメントの併用を

 ここ数年は20代、30代の若い不妊症患者さんが増えていますが、依然として日本で不妊治療を行っている方の半数以上が40歳を超えています。加齢は卵子や精子の質の低下に大きく関わっており、不妊治療を困難にしている大きな要因です。良い生活習慣、栄養バランスは生殖機能を維持するのに非常に重要です。そのため、不妊治療においても上手にサプリメントを活用していくことをおすすめしています。

 ビタミンDは骨代謝に関わり骨や歯を作るのに必要なビタミンですが、近年、卵子の質や反復着床不全などとの関連も報告されてきています。不妊患者さんの血中ビタミンD値(25-OHビタミンD)を測定すると、基準値の30ng/mlを満たしている方は実に1%以下です。つまり、通常の食生活では必要量のビタミンDを摂取することは難しく、サプリメントで摂取した方が効率の良い栄養素のひとつです。またビタミンDは通常の摂取量では十分に足りていない場合も多いため、内服後に血中濃度を測ってみることもおすすめします。

 動物実験では「父親の食生活が子供の健康に影響を与える」との報告があり、健康な赤ちゃんを得るためには男性の生活環境も影響する可能性があります。また不妊患者さんの中には、一見、精子濃度や運動率などの精液検査は問題ないように見えても、酸化ストレスやDNA断片化と呼ばれる精子の質を評価する検査を行うと、異常があったという方も少なくありません。精子の質の低下は受精障害や胚の発生の妨げになると言われおり、このような方には亜鉛や抗酸化作用のあるサプリメントを摂取することをおすすめします。

 他にも不妊治療に良いと報告されているサプリメントはたくさんありますが、中には高額なサプリメントも販売されていますので、闇雲に手を出すのではなく担当の医師と相談して、自分に必要なサプリメントを積極的に摂取するようにしてください。

 最後に、サプリメントや健康的な生活環境を整えて妊活に備えるということは非常に大事です。しかし、そのために何カ月間も時間を費やし、その間は不妊治療を行わないとするのはおすすめできません。卵子、精子の質は男性も女性も年齢によるところが大きく、特に40歳を過ぎた患者さんにとって3カ月、半年という期間は治療が成功するかどうかを左右する大事な時間です。体づくりを行いつつ、不妊治療を並行して進めていきましょう。

(小川誠司/仙台ARTクリニック副院長)

引用元:
サプリを飲んでいますか? プレコンセプションケアという考え方【女性の不妊治療で何が行われているのか】(日刊ゲンダイ)